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身体はもちろんのこと、心も溶け合っていると感じるのは、一方的な思い込みかもしれない。
そうであってほしいという願望がそう思わせているか。
心の蓋に、かすかに手を触れたところで、聖司に溺れる小さな身体を激しく感じた。
(ヤバい……)
思った途端、理性を手離す。
心を開ける前に、本能が暴走し出した。
砕けそうな身体を奮わせ、真っ白の欲望を放つ。
悲鳴に近いあられもない嬌声が、朝のリビングに恥ずかしげもなく響き渡った。
成美が胸元から顔を上げてくる。
少しだけ身体を引き上げてあげて、柔らかなキスを交わした。
離れる口唇の間で、荒い呼吸が行き来する。
聖司は成美を強く抱き締めた。
心地のいい重みを受けながら、聖司は心の変化を感じていた。
この人と居ると、気持ちが柔らかくなる。
身体を満たせば、女に対する感情は、“無”に帰していたのに。
今、抱き締めているこの温かさに、心の中で、穏やかな風が凪いでいた。
少しずつ、心は動き出す。
でもまだ、あの痛みに対する怖さは過っていく。
だから、今はゆっくりと心が膨らむのを感じていよう。
焦ることはない。
心を育てることすら心地が好いと、聖司はそう思っていた。
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