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カウンターの中から本の積まれたワゴンを押して出てくる成美を見て、聖司は席を立った。
今まで読んでいた本を片手に、本棚と本棚の間の通路を進む。
一列ずつ覗く場所に成美の姿を探した。
数列覗いたところで、一台のワゴンを見つける。
本がたくさん積まれたその向こうで、窓の明かりの逆光になる姿が目に入った。
上に手を伸ばした彼女の肩から、長い髪がはらりと滑り落ちる。
横顔の輪郭を光でなぞるその姿に、聖司の胸はどくんと脈を打った。
彼女の方へ向き直ろうとした足が固まる。
刹那、聖司の脳裏を何かが、ふ、と掠めた。
こちらへ振り向く長い髪。
脳内で重なる黄昏色の光景。
――――『…………――くん』
「新田くん?」
聖司を呼ぶ誰かの声に、成美の声が重なった。
は、として足の向きを変え、不思議そうな顔をする成美に歩み寄った。
「今の大丈夫だった?カウンターで同僚の人に何か言われてたみたいだけど」
表情がわかるまでに近づくと、成美は少しだけ頬を赤らめる。
それがまた、聖司の目元を緩めた。
「あ、あれは……」
ぱっと聖司から目線を逸らす成美。
何か嫌なことでも言われたのだろうかと心配になる。
「ここに来るとき、新田くんの車から降りてるとこ見られてたみたいで……どういう関係なのって聞かれて」
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