見せない心

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見せない心

 手元のファイルを開き、前回のテストの点数と先日のテストの結果を見比べる。  聖司の見立てでは、森永梓(モリナガアズサ)の理解力であれば、この程度の問題くらいもう少し点数を稼げたはずだった。 (まったく……)  軽く溜め息を吐き、狭い部屋の窓を見やる。  とっくに日は暮れ、一台のデスクを挟み空の席に向かい合う自分の影が、真っ黒の窓ガラスに映っていた。  その上には、間もなく22時を指そうかとする壁掛け時計。  秒針の音が聞き取れるほどの静かな部屋に、コンコンとノックが響いた。 「はい」  聖司が応答すると扉が開き、個別指導室に長い黒髪を揺らす女子生徒が入ってきた。 「失礼します」  ナチュラルメイクで清楚な顔立ちをしているが、丈の短いファッションは相変わらず目のやり場に困る。 「どうぞ、座って。……まずはね、森永さん」 「やだ先生、梓って呼んでよ」  椅子に腰掛けながら、梓は上目使いに聖司を見た。  胸元の大きく開いた白ニットは、梓の腕によって柔らかな双丘の膨らみを強調していた。 「ここは予備校でお勉強するとこ。肩と足冷やすような服着てると、男の子達がお勉強に集中できません」     
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