思いの錯誤

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思いの錯誤

*  横目で見ると、成美がカウンターの向こうで小学生の女の子に笑顔を向けている。  お辞儀をする彼女の前から女の子が捌けると、不意に顔を上げた瞳と目が合った。  にこっと微笑み返すと、成美は頬を赤らめ、ぱっとうつ向いてしまった。 (照れてる、……可愛い)  さざなみのような静けさの漂う図書館。  窓際のいつもの席で、いつものように本を広げる。  ひとつだけいつもと違うのは、たった一人で居座っていたこの空間に、彼女が居ること。  といっても、成美は今仕事真っ最中だ。  それでも聖司は、勝手にデートでもしているような錯覚をしていた。  今朝はあれから昼近くまで、二人裸のまま抱き合っていた。  飽きるほどキスをして、何度も繋がり合った。  さすがに遅刻すると慌てて家を出て、ここに到着したのは出勤ギリギリの時刻だったようだ。  申し訳なく思い、休憩の時間には近くの喫茶店で何かご馳走すると、彼女の休憩時間まで待っているところだ。  聖司が気づくと、成美はカウンターの中で同僚の女性に何やら詰め寄られているようすだった。  話し声は聞こえず、彼女が思い切り頭を振って同僚の女性をすり抜ける。     
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