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「な、なんだ、これは……?」
「う、嘘だろ、俺達の村が……なんで……?」
「ははっ……冗談、だよな?ビナージュ村が……こんな……こんなことになっているなんて……」
村人達は誰もが自身の目を疑い、放心した。
ロレーヌは、立ち尽くす村人達の間を縫いながら外へ出る。
そして……彼女もまた村人達と同じ表情になった。
「何……これ……?」
絶句するロレーヌの後ろから出てきたバルトだけはただ一人、ある程度は予想がついてたかのように、やはりかと呟く。
彼らが目撃した風景は、祠に入る前とは激変していた。
地面は黄色い砂に覆われ、祠の前にあった茂みもまた黄色いオブジェと化している。
いや、茂みだけでは無く、家屋も井戸も看板も村のシンボルである風車も……その全てが黄色い砂に包まれていた。
彼らがたった今出てきた祠さえも、砂に塗れ、パラパラと頭上から黄色い砂が落ちてくる始末である。
「そ、そうだわ!魔物さんは!?」
ハッと我に返ったロレーヌは、辺りを見回して魔物の姿を探した。
けれども、祠の前に居たはずの魔物の姿はどこにも無い。
「居ない……?どこへ行ったの……?」
「……あいつがやったんだよ」
誰かが、ポツリと小さな声でロズリアに答えた。
エッ、と驚いてロズリアが声の方を見ると、声の主はエリルだった。
「まだわからないのかよ、お前!?あいつに何を言われたか知らねえけど……お前らは騙されたんだよ!騙されて……俺とダリンをこの祠に押し込めるように誘導されて……自分に抵抗しようとする邪魔者が居なくなった魔物は、村をこんな風にしたんだ!!」
「いや、そうでは無い……あの魔物は、ロレーヌが伝えられた通り……この村を守ろうとしていたのだ。たとえ、村を守ることはできなくても……村人だけは守ろうとしていたのだ」
「そんなの、お前らの勝手な想像だろ!?現にあいつの姿は無えじゃねえか!村をこんな砂漠みたいにして逃げた犯人はあの魔物しか居ねえだろ!」
「だから、違うって言ってるじゃない!どうして、うちとバルトの言うことを信じてくれないの!?あの魔物は、自分の命を懸けてもいいって言うぐらい……あなた達村人のことを大切に想っていたのに!」
「信じられるわけ無いだろ!……"青鬼ブリュドー"だって、ようやく認めてやろうかって時に勝手に出て行ったんだ……。魔物なんて……誰が信じるよ」
最後の方は、何か辛いことを思い出すように、歯を噛み締めて力無く言葉を吐くエリル。
そうだよ、とダリンも沈痛な表情でエリルに寄り添って同意する。
「魔物には、人間と仲良くなろうとか、仲間になろうとか……彼らには最初っからそんな気は無いのかもしれない。信じたって、その信頼を裏切られるのなら……信じない方がまだマシだよ」
「旅人さん方……あなた方も今、それを痛感しているのでは無いですか?我々を守ると……あなた方を守ると言っていた魔物に、掌を返されたようなことをされているのですから。認めたくない気持ちはわかりますが……魔物は悪、人間とは相容れない存在だと認めるべきです」
ダリンと、エリルの父親に諭され、ロレーヌは返すべき言葉を失った。
違うのに、とその言葉は喉まで出てきているのに、最早彼らの言葉を否定する根拠が無いからである。
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