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(魔物は悪、だなんて……認めちゃダメなのに……。それを認めたら……うちとバルトだって……。でも、あの魔物は消えちゃったし、上手く説明できない……。パパだったら……パパだったら、きっとこの人達を説得して、村を元通りにできるのに……。うちじゃ……パパみたいな力も威厳も無い)
「パパ……」
お通夜のような表情になってしまった村人達に、自分の無力さを実感したロレーヌは、弱気になって俯く。
悔しさと切なさで、彼女の藍色の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
(ロレーヌ……貴女のそんな顔を見ていると、私もまた辛いです。しかし……私にもまた何ができるというわけでは無い……。たとえ、村人を説得できたところで……この村はもう、元の長閑で平和な景色を取り戻すことは無いのだから……)
彼女の隣に立つバルトも、右手で左胸をぎゅっと掴んで押し黙っている。
風圧によって乾いた地面から舞う黄色い砂を浴び、絶望に打ちひしがれた村人達は無言で次々と膝から地面に崩れ落ち、両手で頭を抱えていく。
誰一人、何も話さず、異常とも呼べるほどの静寂が辺りに訪れた。
(こんな物語……面白くなーい。物語はいつだってハッピーエンドじゃないとー!だって、僕はそうであって欲しいと願っているんだからー)
静寂を打ち破ったのは、その場に似つかわしくない、少年の単調な声。
その声はまるでその場に居る全員の頭に、直接語りかけているような……不思議なものだった。
「えっ……何、この声?」
「ダリン……なのか?でも、ダリンにしては声が幼すぎるような……」
皆の視線を受けたダリンは、僕じゃ無いよと彼自身も驚いているように、目を丸くして首を横に振る。
「それに、どちらかと言えばこの声は……」
「そのハープから聞こえて来るように感じられましたが……」
バルトの指摘に、今度はロレーヌの背中に一同の視線が集まった。
背中にジオーヌ愛用の琥珀色のハープを背負ったロレーヌは、エッと驚きに体を上下にビクッと跳ねさせる。
「ハープって……えっ、まさか、嘘……?今のって……遊玉が喋ったの!?」
(驚かせてごめんなさーい、お姉さん。でも、黙っていられなくて……僕自身も驚いているんだー。こうやって、意思を持って人と話をすることができるなんてー!)
声がそう答えた直後。
目も眩むばかりの白い光が遊玉から放たれ……
「きゃっ!?」
「……っつ!」
「うわあっ!?」
「……っお!?」
その場に居た全員が、利き腕で顔を覆って目を閉じる。
白い光は辺り一帯を包んでいたが、やがて徐々に収束し……完全に消えた。
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