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「収まった……の?」
「今の光は一体……?」
「もう、何がなんだかわけがわからねえよ!」
戸惑いつつも、村人達とロレーヌとバルトが目を開けると、彼らの目の前にあったのは……
「こんにちは、初めましてー。ううん、正確には"久しぶり"なのかなー?でも、"初めまして"で合っているんだろうねー。この姿で人と対面するのは初めてなんだからー」
キョトンとした表情で自問自答する少年の姿だった。
紅色のくるくるパーマ髪に大きな琥珀色の瞳を持ち、左目の下には泣きぼくろを備えた彼は、人間の年齢にすれば九才ぐらいであろうか。
紅いフリンジの付いた藍色のポンチョが体のほとんどを覆い、その下から紫色のガウチョパンツと黒の履物が微かに見えている。
「お姉さん、お兄さん、それに村の皆さん、こんにちはー!僕は遊玉(ゆうぎょく)、お姉さんが持っていた琥珀色のハープの赤い宝石の……精霊だよー」
「せ、精霊って……えええっ!?」
「こ、これは夢……なのか!?だ、誰か俺の頬をつねってくれ!」
「あ、あ、悪霊、た、退散!」
驚いたり混乱したり祈ったりと、様々な反応を見せる面々に、酷いよと遊玉は傷付いているようにがくりと肩を落としてみせた。
「信じられないかもしれないけど、僕は本当に精霊なのに……」
「本当に……お前はあの遊玉なのか?」
「本当に、本当だよー!証拠……見せたら信じてくれるー?」
遊玉と名乗った少年が上目遣いで尋ねた次の瞬間、カッと再び眩い光が放たれる。
その場に居た全員が再び顔を腕で覆ったが、今度は光は一瞬で収束し、
「ほ、本当なのね……」
「そのようですね……」
ロレーヌ達が目を開くと、先ほど少年が居た場所には琥珀色のハープが落ちていた。
(ねっ、これで信じてくれたー?じゃあ、精霊の姿に戻るねー!)
遊玉はおどけているような口調で訊くと、琥珀色のハープから眩い光を放って、精霊の姿に戻る。
「お前が本当にあの遊玉だということは、私とロレーヌ……そして、ここに居る全員が理解した。そこで……だ、話は戻るのだが、"物語はハッピーエンドで無いと面白くない、そう願っているから"とはどういう意味だ?」
「う、うちも気になったわ、バルト。ねえ、遊玉……それってつまり、あなたならこの砂漠化してしまった村を元通りにできるっていうことなの?」
バルトとロレーヌの問いに、遊玉は目を丸くして交互に二人を見つめた。
村人達も、君ならできるのか、どうか助けてというように僅かな希望を彼に掛けているかのように、縋るような眼差しで遊玉を見ている。
遊玉は、右手の人差し指を右頬に当てて、うーんと何か考えているように小首を傾げると
「たぶん、ねー。できるか、できないかで訊かれたらできる……のかなー?そうじゃないと、僕がこの姿になった意味が無いと思うからー」
「さっきから、答えが曖昧すぎんだろ、あんた!本当……何なんだよ、"ハープの精霊"とか意味わからねえし!」
「だって、しょうがないでしょー。精霊としては、生まれたばかりって感じなんだから、今の僕ってー。僕自身もどこまでできるのか、よくわからないんだもーん。でもね、この状況をどうにかしたいって思っているのは本当なんだよー?だから……ね」
前半はのらりくらりとした口調でエリルに答え、後半は独り言のように言葉を紡ぐと、遊玉はチラとロレーヌの方に大きな琥珀色の瞳を向けた。
視線を向けられたロレーヌは、うちに何かと驚きと多少の不安の入り混じったような複雑な表情になる。
「そう構えなくても大丈夫だよー、お姉さん。ただ、ちょっと手伝って欲しいだけなんだー。そんなに難しいことじゃないから、心配しなくていいってー!」
「うちに……手伝って欲しいこと?」
「うん。あのね……僕で演奏して欲しいんだー。歌は僕が奏でるから、お姉さんは歌に合わせてハープを弾いてくれるだけでいいよー!」
「ハープを弾く……って、うちが!?」
ロレーヌは自分を右手人差し指で指差して、ズザッと音が聞こえそうなほどの勢いで後退った。
彼女の顔は、名指しされて驚いているでは説明がつかないほど、蒼白く不安げである。
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