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「んっ?どーしたの、お姉さん?顔色が悪いよー?」
「遊玉……実は彼女は……」
沈痛な面持ちで、ロレーヌに代わって事実を明かそうとしたバルトだったが
「ま、待って、バルト!だ、大丈夫……う、うちなら大丈夫だから!」
ひどく慌てた様子のロレーヌに止められ、わかりましたと口を閉ざす。
相変わらず顔色は悪いままで混乱状態のようだったが、それでも彼女は遊玉の方を見て、うちじゃないとダメなのよねと確認するように尋ねた。
「うん……そーだけど、お姉さん?何か心配事でもあるのー?」
「……も、もしかしたら、失敗ちゃうかもって思って。そ、それでも良いなら……やってみる」
「失敗なんてしないよー、お姉さん!僕が言うんだから、本当に本当だよー?リラックスして僕を弾いてみてー!」
遊玉は微笑むように口元を緩ませながら言うと、白い光を放って琥珀色のハープの姿に戻る。
カランと音を立てて黄色い砂の地面に落ちた遊玉を、ロレーヌは恐る恐る拾い上げてジッと見つめた。
(遊玉……うちのことを信じてくれているの?うちは絶対に……"失敗"しない?このハープを……"上手く演奏することができる"の?)
心の中で遊玉に問うロレーヌの姿を、バルトもまた彼女と同じ不安げな表情で見守っている。
(遊玉はああ言っているが……確証はあるのだろうか?……ロレーヌ姫様のことは信じている。恐らく、遊玉を……あのハープを私が弾いても何も起こらないのだろう。私の予想が正しければ、あのハープを弾けるのは姫様と……兄貴だけだろうからな。だが、ロレーヌ姫様には不安を完全には払えないだけの理由がある。彼女は……)
そこまで考えたところで、バルトはふと視線を感じて、いつのまにか下げていたらしい顔を上げた。
ロレーヌが無理矢理に口元に笑みを作って彼に微笑みかけながら、小刻みに震える右手をハープの弦にかけていたのである。
他の村人達の視線もロレーヌに集まっていたが、彼女はまるでこの空間にバルトと二人だけであるかのように、澄んだ藍色の瞳でバルトを見つめていた。
その瞳は
(大丈夫、バルト……うち、頑張るから。心配しないで)
……とそう伝えているように、バルトには感じられた。
(はい、貴女なら……きっと大丈夫です。私が保障します。今の貴女は"あの頃の貴女"とは違いますから)
バルトもまたレッドブラウンの瞳でしっかりとロレーヌを見返して、強く頷くことで彼女に心の中で言葉を返す。
それを見たロレーヌは、今までの不安が一気に解けたようにリラックスして安らいでいるような表情になり……彼女は聴こえてきた遊玉の歌に合わせてハープを鳴らした。
「おお、これは……素晴らしい」
「美しい旋律だ……」
「そうだね……心が洗われるような、素敵なハーモニーだね」
村人達は口々に褒め称えながら、彼女と遊玉が奏でる美しい演奏に聴き入っている。
音楽にあまり興味の無いエリルさえも
「何だよ、あいつ……めちゃくちゃ不安がってたくせに、ハープの演奏うまいじゃねーかよ……」
と、ぼそっと右斜め下を向いて思わず呟いてしまったほどだった。
……どのくらいの時間が過ぎたか。
それは三分ほどの短い時間にも、数時間ほどの長い演奏にも思えた。
「……ふう」
遊玉の歌声が聞こえなくなった数秒後に、ロレーヌはハープの演奏を止めて、ホッとしたように息を吐く。
「……見事な演奏でしたよ、ロレーヌ」
「ありがとう、バルト。貴方が褒めてくれるなら……大丈夫だったのよね?少し疲れたけど……安心したわ」
バルトの賞賛に、ロレーヌが微笑みながら言葉を返した直後、ワアアッと村人達から歓声が上がり、割れんばかりの拍手が彼女を包んだ。
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