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「感動しました!何と言うか……心が震えて、胸が熱くなりました!」
「村はこんなことになってしまいましたが……あなたの演奏で生きる勇気を取り戻した気分です!」
「寿命が十年は延びたような気がするのう」
まるで神様か仏様のように崇められ、有難やと拝まれ、褒めすぎよとロレーヌは頰を紅く染める。
「うちはただ遊玉の歌に合わせただけ……凄いのは遊玉だもの」
「ありがとー、お姉さん。でも、僕は何にも凄くないよー。お姉さんじゃないと、みんなの心を癒すような演奏はできなかったんだからー!」
「そんな……謙遜しなくていいのよ、遊玉。あなたは本当に……って、もう人型に戻ってるの!?」
いつの間にかハープから精霊の姿に変わった遊玉に、ロレーヌが驚きの声を上げて仰け反った。
遊玉は、そうだけどどうしたのというように目を丸くして小首を傾げている。
「お前もわけわかんねえ存在だよな……。ハープになったり、人になったり……」
「そーかな?僕のことよりさ……ほら、みんなー!周りを見てよー!ねえねえ、何か気付かないー?」
嬉しい秘密を打ち明けるように目をキラキラさせて遊玉は村人達とロレーヌ達に訊いてきた。
「周りって……」
「ああっ!?」
「ま、まさか、こんなことが……?」
辺りを見回した村人達は信じられないものでも見たかのように目を限界まで拡張させ
「う、嘘でしょ……」
「遊玉……お前がやったのか……?」
ロレーヌとバルトもまた、驚愕の表情と共にその場に固まる。
しかし、彼らが驚くのも無理は無かった。
なぜなら、建物も祠も風車も……何もかも黄砂に塗れたはずの村が、まるで何も無かったかのように元通りの長閑で平和な村になっていたからである。
彼らの反応に満足したらしい遊玉は、ほらねと会心の笑みを浮かべた。
「これこそ正に、信じる者は救われる……ってことだよねー!僕は信じてたよー、お姉さんと僕なら、やれるってー!」
「マジで何者なんだよ、お前ら……。尊敬通り越して、ちょっと怖えんだけど」
「怖いは失礼だよ、エリル。彼らは村を救ってくれた"英雄さん"なんだから」
口の端を引きつらせて渋い顔をするエリルを、ダリンが嗜める。
そうだぞエリルと村長らしき風格の壮年の男性が、彼に続いて注意した。
「お前は昔から変わらず素直では無い性格じゃな、エリル。英雄さん達に感謝の言葉の一つでも述べなさい」
「……私は何もしていないが、確かにロレーヌと遊玉は英雄と呼ばれるに足るだけの活躍はしているな」
「僕達、村の英雄なんだってー!良かったねー、お姉さん!村を救えていっぱい感謝もされてー!」
フッと口元を僅かに綻ばせるバルトと、無邪気に喜ぶ遊玉に話を振られ、やめてよとロレーヌは口では止めるもののその表情は満更でも無さそうだった。
彼らの視界の端で、村長とダリンに窘められたエリルはチェッと舌打ちをする。
「また、俺が怒られるのかよ……十七年前のデジャヴかっての。んっ?そういや、ロレーヌとかいうお前……」
「えっ?うちがどうかした?」
「……何でも無え。たぶん、気のせいだよな」
(あの時の……胡散臭そうな笑い方の吟遊詩人に似てる気がしたんだけどな。まさか……だよな?)
何かに気付いたらしいエリルだったが、そう自分の中で言葉を飲み込んだ。
ロレーヌは不思議そうな顔でエリルを見つめていたが、アッと唐突に声を漏らして表情を曇らせる。
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