来る春を、君に捧げる

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 ふと、白く重たげな空から冷たい粉が降ってきた。風に舞う雪は地面に触れては消えていく。エナガたちは逃げるように飛んで行った。  彼女が帰ってしまうのは惜しいけれど、私は降る雪から彼女を守ることはできない。ならば私は暖かいところへ戻るように、彼女に伝えるしかないのだ。  「早く校舎の中に入るといい。このままではきっと君は風邪をひいてしまう。」  そう言ったとき、彼女はカメラから顔を上げた。榛の双眸は、確かに私のほうを見ていたのだ。  あまりに突然のことで私は降り積もる雪の冷たさなどすっかり忘れてしまった。  それどころか彼女は校舎へ戻ることなく私の方へと足早に近づいてきた。もしかしたら私の声が聞こえていたのかと思うと恥ずかしく、茶色の小さなローファーに視線を落とした。  そして彼女は私の目の前で足を止めた。私を見上げ、そしてカメラのシャッターを一つ切ったのだ。  「君の目に私はどんな風に映っているのだろう。」  彼女は桜色の唇を小さく動かして呟いた。  「この桜はもう蕾をつけているのね。」  彼女はもう一度、シャッターを切った。  カメラを首に下げ、両手を暖めるように口元へ運ぶと、彼女は今度こそ校舎の中へと入っていった。  体育館脇にいる桜の私は、決して彼女と話すことはできない。  風よけになることもできない、葉の落ちた冬に雪よけになることもできない。  けれど春が来て、この蕾がすべて花開いたころなら、ファインダー越しの視線をを独占することができるだろうか。
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