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雨模様の誕生日
彩り山の麓にある、彩り神社を中心に広がる、とあるのどかな町。
その町のバス停『彩り町一丁目』のすぐ近くに、四角いクリーム色の、可愛らしい建物が立っている。
洋菓子店『カラフル』。地元で愛される人気店だ。
店内は外壁と同じ薄いクリーム色の壁紙が暖かい色の照明に照らされていて、木目の見える商品棚が並んでいる。中央には冷蔵のショーケースが置かれていて、シンプルで落ち着いた雰囲気の空間だ。
商品棚に丁寧に並べられたマドレーヌやフィナンシェ、クッキーなどの焼き菓子は、普段のおやつにもぴったりな、素朴な味わいとお手頃な値段で人気だ。いくつか選んでラッピングすれば、温かみのあるギフトにも変身する。
では、ショーケースの中はどうなのかと言うと、こちらには煌めきが詰まっている。
たっぷりクリームが詰まったシュークリーム、しっとりとしたスフレチーズケーキ、つやつやのチョコレートでコーティングしたチョコレートケーキに、真っ赤なイチゴが乗ったシンプルなショートケーキ。まるで宝石が乗っているかのように美しい季節の果物が乗ったフルーツタルトは、この店一番の人気商品だ。
特別な日のプレゼントや、ちょっとした自分へのご褒美に。その一日に華やかな彩りを加えてくれることは間違いない。
……間違いないのだが、それは私以外の誰か、にとっての話だと、彩は思う。
「彩ちゃん、時間だよ。キリの良いところで上がってね!」
厨房から顔を出した店長が、ショーケースの拭き上げをしていたアルバイト――雨月彩に、そう声をかけた。
「はい、ありがとうございます」
そう返事をしながら、彩はショーケースを拭き切った。
ピカピカに磨かれたガラスの向こうに、色とりどりのお菓子が所狭しと並んでいる。
それは心躍る光景であるはずなのに、彩にとっては灰色の、くすんだ世界の一部に過ぎなかった。
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