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「不思議なことですけど、あなたが店の前で立ち止まっていなかったら、今こうしてお茶を飲んだりしていませんよね。そこには、何かの縁があるような気がするんです。あなたが泣き止んでくれて、僕の淹れたお茶をおいしいと言ってくれて、一緒にお菓子を食べようと言ってくれたことが、僕にとっては、とても嬉しいことなんです。……こんなことを言うと、僕の方が変わっているかもしれませんけど」
「……いえ」
彩は首を横に振った。
「何だか、嬉しかったです。何となく、おめでとうと言われるのも居心地が悪いような気がしていましたけど、そう言ってくれる人の気持ちも、その人それぞれのものなんですよね。当たり前のことなのに、初めて気付いたような気がします。」
彩はそう言って微笑むと、湯呑に残っていたお茶を飲み干した。
「あ、良ければもう一杯、いかがですか。まだクッキーも残っていますし」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
円に湯呑を預けて待っている間、彩は自分の気持ちが何となく、軽くなっているのを感じていた。
遠野さんは不思議な人だ。話すのがあまり得意ではない私が、初対面の人とこんなに話をするのも珍しい。いつの間にか、ここは居心地のいい場所だ、と思い始めている自分に気付いて、彩は知らず知らずのうちに表情を緩めていた。
その時だった。
作業をしている円のことをぼんやりと眺めていた彩は、テーブルに置いた右手の肘のあたりに、くすぐったいような感触を感じた。
パッと手を上げて目をやるが、そこには腕を擽るようなものは何もない。
と、今度は首の後ろのあたりが擽られた。
「な、何!?」
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