縁茶屋

6/6
前へ
/12ページ
次へ
 驚いた彩はガタンと大きな音を立てて立ち上がり、円も驚いて顔を上げる。  「どうしました?」 「あ、あの、何か首の後ろを擽られた気がして……」  そう言うと、円の目は一層驚きに見開かれた。  「雨月さん。ちょっと後ろを向いてもらえませんか?」 「後ろ?」  言われたとおりに後ろを向くと、円はカウンターから出てきて、彩の背中から何かを取った。  「ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」 「何かついてました?」  彩がそう言いながら振り返ると、円の左の手の平に、何か白い毛玉のようなものが浮かんでいるのが見えた。  綿埃、にしては大きすぎるし、もっと密度がある。それに、少し浮いているのも不自然だった。  「……雨月さん」  円は彩の視線が自分の左手に向かっているのを確認して、それから信じられない、と言った様子で彩に聞いた。  「もしかして、これ、見えてます?」 「これって……それですか? その、白いふわふわしたやつ……」 「それです」  円は驚きを隠しきれない様子で彩を見た。  彩は何故驚かれているのかわからずに、ただ首を傾げた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加