雨模様の誕生日

2/6
前へ
/12ページ
次へ
 「お先に失礼します」  彩が他の販売員に挨拶を済ませて厨房に顔を出すと、店長が出入り口まで歩いてきてくれた。  「これ、頼まれてたケーキね」  手に持っていた白い箱を彩に渡しながら、店長が言った。  「それからこれ、クルミのクッキーはおまけだよ。今日もお疲れ様でした。良いお誕生日を過ごしてね」  彩がラッピングされたクッキーを受け取ると、後ろから他のパティシエたちが、口々におめでとうを言ってくれる。彩はそれに笑顔で返事を返しながら、ずっしりと重たいケーキの箱を受け取った。  お疲れ様ですと声をかけながら厨房を離れ、彩は裏口手前にある事務室に向かった。ロッカーに寄って制服を着替えるためと、休憩中の先輩販売員に挨拶をするためだ。  辿り着いてドアノブに手をかける直前、ガチャリとタイミングよく扉が開き、彩は先輩と鉢合わせた。  「雨月さん? ……何か用?」 「雪田(ゆきた)さん、あの……お先に失礼します」 「……ああ、お疲れ様」  先輩販売員の雪田千春(ちはる)はつまらなそうに彩を見て、それから彩の手にあるケーキ箱に視線を落とした。  「珍しいわね、あなたがケーキを買って帰るなんて」 「あ、えっと……」  彩が何かを言う前に、雪田はその隣をすり抜けて店頭の方へ行ってしまった。  彩は暗い気持ちのまま着替えを済ませ、裏口から外へ出た。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加