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「お先に失礼します」
彩が他の販売員に挨拶を済ませて厨房に顔を出すと、店長が出入り口まで歩いてきてくれた。
「これ、頼まれてたケーキね」
手に持っていた白い箱を彩に渡しながら、店長が言った。
「それからこれ、クルミのクッキーはおまけだよ。今日もお疲れ様でした。良いお誕生日を過ごしてね」
彩がラッピングされたクッキーを受け取ると、後ろから他のパティシエたちが、口々におめでとうを言ってくれる。彩はそれに笑顔で返事を返しながら、ずっしりと重たいケーキの箱を受け取った。
お疲れ様ですと声をかけながら厨房を離れ、彩は裏口手前にある事務室に向かった。ロッカーに寄って制服を着替えるためと、休憩中の先輩販売員に挨拶をするためだ。
辿り着いてドアノブに手をかける直前、ガチャリとタイミングよく扉が開き、彩は先輩と鉢合わせた。
「雨月さん? ……何か用?」
「雪田さん、あの……お先に失礼します」
「……ああ、お疲れ様」
先輩販売員の雪田千春はつまらなそうに彩を見て、それから彩の手にあるケーキ箱に視線を落とした。
「珍しいわね、あなたがケーキを買って帰るなんて」
「あ、えっと……」
彩が何かを言う前に、雪田はその隣をすり抜けて店頭の方へ行ってしまった。
彩は暗い気持ちのまま着替えを済ませ、裏口から外へ出た。
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