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彩は歩きながら、そもそも何故自分の誕生日に、自分のバイト先で、自分でケーキを買って帰らねばならないのか、と思った。今日一日で何度考えたかわからない。
第一、彩は自分の誕生日がこれっぽっちも嬉しくなかった。
ついに二十歳となり、今日から成人だ。だが、それが一体何だというのだろう。
お酒にも煙草にもギャンブルにも、彩は興味がなかった。
車の免許はもう持っているし、特別やりたいこともない。
これは今に始まったことではないが、彩は自分に、というより、自分の人生に興味がなかった。昔は鮮やかだったはずの景色が、灰色にくすんで見え始めた頃から。
趣味の読書も、暫くずっとしていない。もはや趣味と呼べるのかどうかさえ怪しくなってきている。
そんなことを考えているうちに、彩はだんだんと虚しい気持ちになった。それに追い打ちをかけるように、雨粒の最初の一滴が彩の頭に落ちてきた。
「冷た……」
彩は走り出したが、すぐに速度は緩み、やがて立ち止まってしまった。
俯いて地面しか映らない視界が、じわりと滲んでいく。
虚しかった。
雨に打たれながら、何も嬉しくない自分の誕生日ケーキを庇うように走っていくことが、無意味なことのような気がした。
雨足は強まるばかりで、早くも髪からは雨粒が滴り落ちている。
その雨の冷たさを感じながら、彩は泣いた。
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