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薄紫色の丸いフォルムの湯呑は、手のひらに温もりを分け与えてくれた。一口飲むと温かさがお腹から広がり、良い香りが鼻から抜けていく。
「……おいしい」
「それなら良かった」
彩の言葉に、男性はホッとした笑顔を浮かべて、自分も座るとお茶を飲んだ。彩が飲んでいるのと色違いの、薄青色の湯呑だった。
男性は一口お茶を飲んで一息つくと、一度湯呑を置いた。
「そういえば、自己紹介もまだでしたね」
そう言われて、彩もそういえば、と男性を見た。
座っていてもすらりと背が高く見える。前髪と細い黒縁の丸眼鏡に邪魔されてあまりよく顔は見えないが、どちらかというと整った顔をしているように見えた。笑うと雰囲気が柔らかくなり、少し可愛らしい印象になるな、と彩は思った。歳も、そう離れてはいないだろう。
「僕は遠野円。この『縁茶屋』の店主です。先ほどは急にお声掛けしてすみませんでした。驚いたでしょう?」
「あ、いえ、…すごく助かりました。あの、私は雨月彩と言います」
「……雨月さん?」
彩が名乗ると、男性――遠野円は驚いた顔を見せた。
「もし、間違っていたら申し訳ないんですが……雨月さん、『カラフル』で働いてたりしませんか?」
「えっ? ……お会いしたことありましたっけ」
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