縁茶屋

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 職場を言い当てられて彩は驚いたが、お客様の中には常連さんもいるし、自分も名札を付けているので、名前を覚えられていても不思議はない。  けれども、彩には円に見覚えがなかった。  「僕、甘いものが好きで、『カラフル』にもよく行くんですよ。どこかで見覚えがあると思ったら、お店の店員さんだったんですね」  円は思い出せて嬉しい、と笑った。  「すみません、私全然、覚えてなくて」 「良いんですよ。たくさんのお客さんの中の一人ですもん、覚えてもらってた方がびっくりしちゃいます」  にこ、と微笑む円に言われると、不思議と申し訳なさは薄れていった。  と、そこで彩はあることを思い出して自分のカバンを開けた。  「あの……お茶請けのお菓子、クッキーで良かったら食べませんか? クルミがお嫌いでなければ……」 「クルミのクッキー? 『カラフル』のですか?」 「はい」 「大好きです! え、でも良いんですか……?」  嬉しそうに言う円が何だか可愛らしく見えて、彩の表情は自然と綻んだ。  「良いんです。店長がおまけしてくれたものなので……誕生日のお祝いにって」 「雨月さん、今日誕生日なんですか?」  棚から皿を持ってきながら、円は彩に聞いた。  彩は余計なことを言ってしまった、と思いながら頷く。     
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