人として

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〈眼科〉  富士田がドライアイで数年前から通っている棚橋眼科にいる。 「富士田さん、視力検査しますから、こちらに来てください」 「左目が痛くて開けられないから来てるのに視力検査ですか?」 「がんばってやってみましょう」  ここの眼科の看護師はいつも無理を言う。 「勘弁してください。開けてられないので……」  やっと、視力検査をなしにしてもらえた。 「富士田さん、診察室に入ってください」 「キズが深いですね。今取りますから」  この先生は富士田の黒目の上に積もった涙の結晶のようなものをピンセットでつまんで取り去る。今日の左目は3ヶ所だったらしく、ピンセットが3回迫ってくるのが見えた。  前の時に通っていた眼科は綿棒で絡め取る取り方だった。まあ、どちらでもこうなってしまったら取り除いてもらわないと痛みが治まらないのだから、ドライアイのケア不足だったと反省した。壁が割れたり空が割れたりするのが気になり、この目のことをなおざりにしてしまっていた。 「ありがとうございました。あの、先生、白壁や曇り空を見ると線状の亀裂が見え、黒い小さな船のようなものも見えるんですが……」 「じゃあ、診てみましょう」  検査機器を前にいくつか写真などを撮ったあと、先生が言った。 「『飛蚊症』ですね。急に増えたとかであれば網膜剥離も考えられますが、今のところそれはないです」  俺が黙ってると、医者が続けた。 「そのうち慣れますよ。老化、老化現象ですから」
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