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〈富士田の家〉
今日で俺の仕事は終了した。俺はもとの姿に戻り、富士田がスーツのまま眠っているのを見下ろした。
「1年間、身体借りてました。ありがとうございました。ちゃんと眼科に行っときましたので目薬さし忘れないように。あと、先生の診断は間違ってて『飛蚊症』ではないですから」
俺は窓から外を見た。仲間の船がもう空いっぱいにいる。
「俺はまだ飛べるかな。10年間、この星の人として生活していて、この姿になるのは人から人へ移る時だけだったからなあ」
小学生、中学生、高校生、大学生、社会人、男だったり女だったり、いろんな人に入ってこの星の調査を一所懸命にやったつもりだが、俺はみんなの役にたてたのかなあ。
「トマ、迎えにきたよ」
頭の中に響く。幼なじみの声だ。
「シン、久しぶり。今出るよ」
俺も頭の中でそう返して、窓をすり抜け船へと向かった。
この星が俺たちの新しい住処になる。人としてお世話になった人たちへ侵入者が来ることを知らせたのに誰も信じてくれなかった。俺のささやかなお礼だったのにな。
「トマ、この星の空はキレイか?」
「シン、君らが来る前はキレイだったよ」
俺は青い空を思い、雲ではなく砂漠を飛ぶバッタの群れのように大挙する宇宙船を見上げた。
〈了〉
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