カチューシャ、携帯、絵葉書

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妹から絵葉書がきた。妹はまだ携帯を持っていないから、こうやって葉書を送ってくるのだ。 ペラリと裏をみる。そこに描かれているのは、懐かしい故郷。 自分は首都圏の大学に通い始めてから、家をでた。現在は一人暮らし。もうだいぶ慣れてきたけど、毎日こうも賑やかな都会に身を置いてると、たまにあののんびりとした故郷が懐かしくなる。 葉書の表面をするりと撫でる。そこから伝わるザラザラとした感触は、手描きのもの独特のそれだ。赤と黄色を中心とした色使いから考えて、秋の風景だろう。妹の学校は2学期制だから秋休みがある。いつもよりたっぷり時間を取れるから、こうやって絵葉書を送ってくれたのだろう。 ………そういえば、絵葉書を受け取っても、返したことはほとんどない気がするな…。 ふと思い至る。目を閉じて今までのことを思い出す。…………うん、ないな。電話をしたことは勿論あるし、帰省してない訳じゃない。でも、こうやって何かを貰うことはまた別の喜びだろう。それに、こういったものならば、手元にずっと残しておける。 そうだ、そういえば妹の誕生日はもうすぐだった。いつものお礼もかねて、何か送ろうか。何をもらったら嬉しいだろうか。妹は小学生だ、使い勝手よりも可愛さを重視した方がいい気がする。そうだ、カチューシャなんかはどうだろうか。母親曰く、妹は最近髪を伸ばし始めて、「女の子」を意識し始めたらしい。女の子らしいもので、可愛いものもあり、なおかつ使える。我ながら良い考えではないだろうか。 思い立ったが吉日だ。幸い今日は休日な上、特に用事があるわけでもない。まだ太陽は真上に上がっていないし、今でてもゆっくりと選べるだろう。 そうと決まれば出かけよう。 カチューシャをつけて嬉しそうに笑う妹を思い浮かべ、いつも通りの騒がしい街へと足を踏み出した。
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