ポチ

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 気付けば、私はその猫に「ポチ」と名付けてしまっていた。  マンションの正面にある公園の入り口に、そいつはいた。朝の七時頃、ゴミ袋を片手に私はそいつをぼんやり見つめていた。やけに熱い視線を感じたからだ。だけどそのうち、相手は私の周りに雑多に積まれたゴミたちを見ているのだと気付いた。  数か月前まで、このゴミ置き場はしばしば荒らされていた。猫の仕業かあるいはカラスか、何かに食い散らかされた名残として、野菜の皮やバナナの皮がよく落ちていた。学生マンションなので近所づきあいもなく、結局誰かに原因を聞くこともできず、いつの間にか、ゴミ置き場には、ネットを被せるというありきたりな措置が取られていた。  猫は薄汚れた白い体から青い目を睨ませて、ゴミ置き場に照準を合わせている。ネットを恨めしく見ているのか、もしかしたらネットをかいくぐる方法を考えているのか。  ゴミ袋をしっかりネットの内側に保護すると、私はそいつの方へと歩み寄っていった。そいつは近づいてもピクリともしない。揺るぎのない目は、相当エサを欲している。  私は猫の斜め前に腰を下ろした。近くで見ると、やっぱり毛並みがぼさぼさでみすぼらしい。だけど睨みさえしていなければ、まあまあ愛嬌があるんじゃないか。そいつの方を向いて呼びかけてみる。 「ポチ」  私は、今しがた発せられた自分の言葉を疑った。  最初はペットの名前でよくある「ポチ」と「タマ」を言い間違えたのかと思った。何せ私は犬派だ。しかし、この猫をもう一度見てみると、「ポチ」だった。そうだ、こいつは「ポチ」なのだ。 「ポチ」  なぜか嬉しくて、もう一度呼んでみた。ちらっとこっちを見て、また視線を戻した。反応は薄いが、嫌がっている訳ではないようだ。それが私をより一層楽しくさせる。  人間が認識する際、名前があるから認識するのか、物があるから認識するのか、という話があるが、別にこの話には関係ない。とにかく、この猫はもはやイコール「ポチ」なのだから。
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