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ある日、私の友人の高木梨子がマンションまで遊びに来た。二人でお喋りしながらマンションに入ろうとしたとき、私はポチを見つけた。今日のポチはマンションの入り口前にポツンと座り込み、ぬくぬくと日向ぼっこをしている。
「ポチ」
私が呼び掛けると、相手はわずかに目を開け、こちらを睨み、また気持ち良さそうに目を閉じた。あの日以来、私達は友情を育みつつあると思っていたのだが、まだ道は遠い。
「ポチ?」
梨子はビックリしている。
「うん、それがね」
いきさつのようなものを説明し始め、ちょうど私の部屋に着いたところで話し終えた。コーヒーを二人分用意して、ベッドの縁に腰掛ける彼女に手渡すと、私は言う。
「なんで、犬と言えば『ポチ』なんだろう」
彼女はコーヒーをすすりながら、私の話を聞いてくれる。
「犬は『ポチ』で猫は『タマ』なのはなんでなんだろう。だいたい、『ポチ』って何? 確かお年玉を入れる袋をポチ袋って言ったりもするっけ? そのポチ?」
「関係あらへん」
彼女はテーブルの上のミルクに手を伸ばす。ブラックはお気に召さないようだ。
「ポチ袋のポチはこれっぽっちのぽっちや。これっぽっちですが受け取ってください、っていう謙遜の意味やな。そんなん犬につけへんやろ」
私はブラックコーヒーの香りを感じながら、少し考える。
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