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 私は窓際で外をぼーっと眺めている。 その視界は、雑草がほとんどで、見渡す限り緑、緑、緑。 だけど、私のお目当てはそれではないの。 またこの景色が見られる季節がやってきた。 "あの子"に言われるまでは、なんとも思っていなかったこの景色。 言われてから気づく美しさってあるわよね。 ……まあもっとも、それを気づかせてくれた張本人がいないのだけれど。 「サクラ、一体どこに行ったのかしら」  あの日。 冷たくなったサクラと一緒に寝たあの日。 目を覚ますとサクラの姿はなく、それから一度も姿を見ていない。 本当に、気まぐれにも程があるわね、あの子は。 まあでも。 また会えるでしょう。 そもそも猫は気まぐれで野性的でなんぼよね。 ……私の野性は大分失われているけど、それは言わないで頂戴。 「綺麗ね……」 私は誰に言うでもなく、呟いた。 遠くを見やると、ピンク色の無数の花びらが、さらさらと風に乗って流れていく。 それは一瞬の光景で。 一瞬で散ってしまうからこそ美しいのかもしれない。 それにしても、あの木の名前はなんていうのかしらねぇ。 そんなことを思いながらも、うとうとしてきた。 私は横になる。 「一人でお昼寝もいいけれど、やっぱり一緒のほうがいいわ。そうでしょう? サクラ」 Fin.
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