サクラ

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 あの子は窓際で外をぼーっと眺めていた。 寝ている以外は、あの子は大体外を眺めている。 ……まあ、眺めているようで寝ていることのほうが多いのだけれど。 今日はどっちかしら。 「ね、ねえ」 私は声をかけた。 この天然娘は眠たそうにしながら、こちらへ振り向いた。 ああ、今日はちゃんと起きているのね。 さて。 どんなことを話せばいいのかしら。 私、完全に見切り発車だったわ。だってこの子、また寝ていると思ったからダメもとで 話しかけたんですもの。 そう私が思案していると、あちらから話しかけてきた。 「……え、私の名前? 私はミーヤよ。というか、私の名前知らなかったのね、一緒に暮らしていれば分かると思うのだけれど」 この子はにへらと笑った。 ……まあ、この子の天然には今更驚きもしないわ。 「あなたの名前はサクラよね。ごめんなさい、さすがにそれは分かっているわよね……?」 この子はこくこくと頷いた。……良かった、さすがに自分の名前は把握していたわ。 「これからはあなたのこと"サクラ"と呼んでいいかしら? 私のことは"ミーヤ"でいいわ」 サクラは再びこくこくと頷き、私にすり寄ってきた。 どうやらサクラは感情を体で表現するようね。私とは少し違う。 「それでサクラ、あなたはいつも何を眺めているのかしら」 遅い遅い自己紹介を終えた私は、気になっていたことを聞いてみた。 だってそうでしょう。 窓から見えるのは、何の変哲もない、結構な雑草が多い茂った庭。 この庭を駆け回りたいのかしら。私は生粋の家猫ですもの、あまり魅力を感じないわね。 そう思っている私に、サクラは鼻先であっちを見て、と私を促した。 「……ああ、なるほどねぇ、確かにあれは」 サクラはなぜか誇らしげだった。 だけどね、サクラ。あれが見られるのはほんの少しの間。 あれが散った後、暑くなって、寒くなって、また暖かくなってから、 再びこの景色が見られるの。 私は何回も経験してるから分かるわ。 あと少しで"アレ"が見れなくなってしまう、という事実を告げるのは意地悪だと思った私は、 「綺麗ね……」 とサクラに言った。 サクラはこくこくと頷いた。
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