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彼女は、まだ諦めきれない様子だ。
「ねぇ、まだやるの? これ、なんか地味にしんどいんだけど。」
「じゃあ、普通に、いつもみたいにお話してて。それで、いい感じの白い息が上がれば、こっちで勝手にシャッターを押すから。」
「はぁ。分かったよ。」
そして、彼女は再び、カメラ越しに僕を見据えた。──何だろう、さっきから感じるこのもどかしさは。
「ええと、何を話そう。──今日はこれまた、随分と寒いね。」
「うんうん。」
彼女は、シャッターを切りながら、相づちを打つ。
「昨日、ついに耐えきれなくなって、コタツを解禁したんだ。そしたら、ミケが物凄く喜んでた。──あ。ミケっていうのは、犬なんだ。いや、知ってたよね。」
「うん、知ってるわ。」
「犬のくせに、物凄く寒がりなんだよ。やっぱり、名前が悪かったのかも。」
「うんうん。」
僕のくだらない話に、彼女は律儀に返事を返してくれる。でも、どこか上の空に感じられた。きっと、シャッターを切るのに必死なのだろう。
妙に、じれったい感じがした。
ほんの二メートル程度しか離れていないのに、まるで彼女がどこか遠くにいるような、虚しい感じ。
彼女の目が、カメラで隠れているからだろうか。
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