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浩介の側を黙って通り過ぎようとしたが,唯に気づいた彼に腕を掴まれる。
「ちょっと待って,唯ちゃん!」
「離してよっ!」
唯は掴まれた腕を振りほどき,浩介を睨み付けた。
フリーズしたままの浩介を一瞥し,駅に駆け込むと改札を抜け,止まっていた山手線の電車に飛び乗る。
電車の中で,スマホが振動しているのも無視して,唯はドアの側に立って外の景色を眺めていた。
☆☆☆☆☆
その日の夜,唯は自宅の部屋で,部屋着のTシャツとショートパンツ姿でベッドの上に寝転んでいた。
コンコン,とドアがノックされて,バイトから帰って来た兄の俊也が入って来る。
時刻は,七時半を過ぎていた。
「唯,晩メシは?」
「いらない。食欲ないの」
兄に背中を向けたまま,唯は答えた。
「めっずらしーな。…お前,彼氏と何かあったのか?」
兄は心配して訊いているのに,唯はムクッと起き上がると枕を掴み,兄に向かってぶん投げた。
「うるさいなぁ!お兄ちゃんにはカンケーないでしょ!?」
地雷を踏んだらしいと悟った俊也は,こっそりと肩をすくめた。
プルルル…♪
机の上で,充電器に繋いでいたスマホが着信音を奏でている。
「ケータイ鳴ってるけど,出なくていいのか?」
「いい。出たければ,お兄ちゃんが出れば?」
唯はまだムスッとしている。仕方なく,俊也が充電器からスマホを抜き取り,画面を確かめた。
「うへぇ,着信二十件にメールが十件。全部おんなじヤツから。ホレ」
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