16、翌朝の二人

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「股関節って……他に言い方ないの」 「え? 抱き潰したからとでも言って欲しいのか?」 「ちっ、違う!」  沙和は吠えたが、相原は余裕の笑顔で「お詫びにシャワーを手伝おうか?」としゃがみこんで視線を合わせてくる。 「いっ、いい! 少し休んだら多分大丈夫だし!」  先に相原から行って来て! いいから行って! と懸命に主張すると、相原は「じゃあお先に」とあっさり引き下がった。軽やかな足取りで部屋を出て行く相原を見送り、タオルケットにくるまったまま再度立ち上がることを試みる。    今度は力が入らないとわかっていた分、踏ん張りをきかせることができた。けれど平時に比べて、相当つらい。  よろよろと壁に手をついて、沙和は「……嘘でしょ……」とうなだれる。ごぽりと自分の内側で泡立つ音がするようだった。昨晩の名残がありありと感じられ、赤面しながら沙和はそのまま壁に背を預けた。 (冷静に……冷静に、考えてみよう……。昨日あったこと)  壮太とのことが明るみに出て、相原が豹変した。それは嫉妬からとみていいだろう。自分がそこまで想われていたことに驚きもあったけれど、それ以上に怒った末の行動がああなるとは思わなかった。  相原はいつだって冷静な人だったから、どこか感情面が希薄に感じることもあった。けれど、あんなふうに感情をむき出しにする姿を目のあたりにして、彼のそれはただ潜んでいただけなのだと知った。 (きっと、相原にはスイッチがあるんだ。感情の……タガがはずれるスイッチが)  昨日の自分はそれに触れてしまったのだ。  壮太に会いに行ったのは、本当に軽率だった。けれど、遅かれ早かれ相原に壮太のことはばれていただろう。 (なんだろう、この気持ち……)  相原への感情が、沙和はよく分からなかった。  あんなことをされて恐怖心が湧いたのは事実だけれど、それでも先ほど言葉を交わした相原からは昨晩の狂気は感じられなかった。拍子抜けするほどだった。相原の中で昨晩のことは、特別なことではなかったのだろうか。 「いやでも……」  タオルケットの合わせを握りしめて、沙和はぶるぶると頭を振った。とりあえずまだ落ち着く時間が必要だ。  沙和はのろのろと体を動かして、クローゼットを開けた。
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