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23、対峙
あの後、相原もすぐに起きてきて、二人でソファに座って朝食をとることになった。
先週の日曜日は、前夜に抱かれたこともあって起きたのが昼に近く、ほぼブランチといっていい状態だったことを思い出す。
その時の自分の腰の状態を思い出して、沙和があわててそれを打ち消していると「今日の予定は?」と相原が聞いた。
(……きた!)
ぴんっと背がはりつめる感覚を内心でおさえつける。
「駅ビルに行くつもり」
本屋に用事があると言うと、相原はさも当然のように同行を申し出てきた。先週末もそうだったのだが、相原は沙和が出かけると言うと必ずついてきた。
(逃げ出さないように、壮太に会わないように、監視したいんだろうな……)
たとえ近所のコンビニでもそれは同じで、そこに相原の執念を感じる。もはや恋とか愛なのではなく、ただの執着であり意地なのではないだろうか。
(子供みたいな所有欲には付き合っていられない)
沙和は物じゃない。
相原のために生きているわけでもない。
それは当たり前のことだけれど、相原がそれを心底から理解しているようには見えなかった。
「一緒に来てもいいけど、お昼は駅前通りにあるイタリアンで食べるつもりで……」
平坦な口調でそう言うと「あそこの店は確かに美味しい」と相原はうなずいた。
「お昼時は混むだろうから、本屋の前に行くか、少し時間をずらして遅めに行った方が良さそうだな」
相原はやっぱり一緒に行くつもりらしい。沙和の読み通りだ。
独り言のように今日の予定を組み立て始める相原の表情に、沙和をいぶかしむような雰囲気は見当たらない。なんとか自然な流れと言い方で目指す方向に持っていけたようだ。
ほっと胸をなでおろして、沙和は相原の提案にうなずいた。
◆
本屋以外にも色々と用事を済ませて、沙和と相原の二人がそのイタリアンの店に入ったのは、午後二時近くになってからだった。三色のイタリア国旗が初夏の風にはためき、明るい色の木製ドアには『OPEN』と札がかけられている。
ランチタイムのピークは過ぎていたが、店内はまだ半分以上の席が埋まっていた。みたところ皆食事をしているというよりは、お茶を楽しんでいるようだ。各テーブルでそれぞれ話し声があがっているが、うまく壁や天井に吸収されているのか決してうるさくはない。
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