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「さすが目玉焼き職人。今日もバッチリの半熟だね」
黄身がとろりとあふれる。沙和の好きな具合の焼き加減だ。そこに醤油をたらして食べるのが本当に美味しい。うんうんとうなずきながら目玉焼きを食べる沙和に、壮太は「今日も大成功」と満足そうに笑った。
「しかもこのパン、ものすごいね、バターが! リッチすぎ!」
軽く焼いた食パンからは、バターの芳醇な香りが漂う。一口かじればその風味が口に広がり、とても美味しかった。
壮太もうなずき「でしょでしょ。試食して一番美味しかったやつにしたんだから、感謝するように」とふんぞり返った。
はいはいと苦笑する沙和に「そういえばさ」と壮太が一瞬だけ眉を曇らせた。
「なんか朝起きたらマリちゃんからメッセージきててさ。今日この後会うことになった」
「おー、デートかぁ。だから朝するのはやめたのね」
本命と会えるなら、沙和の出番はない。そうかそうか、良かったねとうなずいていると、壮太はきょとんとした顔で「え? やるけど?」という反応を示した。
「まさか今から?」
「ん。食べ終わったらしよー」
ニコニコと笑う壮太がわからない。
「でも今日マリちゃんと会うんでしょ?」
「会うよ? 映画観たいんだって。俺は全然興味ないんだけどね」
「で、その後はホテル行くんでしょ?」
「うん、もちろん」
「じゃあ私とする必要なくない?」
「なんで? 約束したでしょ」
「いや、したけど……」
「何さ、破る気? 昨日は夜遅くまでゲームしてただろうからって、朝は寝かせてあげたでしょ? そんな俺の優しさを踏みにじる気?」
「あ、そうなんだ。それはご配慮ありがとう。確かに3時過ぎまでやってた」
「やっぱりね。じゃ、食べ終わったらしようね」
(壮太ってば、そんなに欲求不満だったのか……。てことは普段マリちゃんて一体どれくらい壮太に付き合わされてるんだろ……)
「なーに考えてんの」
ぷにっと片頬をつままれる。壮太は笑っているが、その目の奥に隠したものは見えない。沙和はひょいと壮太の手を外すと「べっつにー」とパンを口に運んだ。
「じゃあ食べ終わったらね」
沙和から言ったことで、壮太もどこか安心したらしい。ほっとしたようにうなずいた。
(妙なところで素直なんだから……)
この幼馴染の思考は、何歳になっても謎だ。
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