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適度な賑やかさと道に面した窓を大きくとっているつくりのおかげか、明るい雰囲気の店だ。
あいにく窓際の席は埋まっていて、沙和と相原は壁際のテーブル席に案内された。店内の奥まった方にある席は、沙和にとっては都合が良い位置だった。まわりのテーブル席も今はまだあいている。
「ここはメニューが多いから、いつも迷う」
大判のメニューを広げて、相原は呟いた。沙和もメニューを見て、まずはその種類の多さに息をのんだ。ランチメニューは基本的にはパスタかピザを選ぶ形式なのだが、その候補が各十種類くらいある。久しぶりにピザも食べたいなと思ったけれど、相原に「シェアしよう」と言う気には到底なれなくて、沙和は無難にナスとベーコンのトマトソースを選んだ。
水を運んできた店員に注文をしている途中に、沙和たちの隣のテーブルに客が一人案内されてくる。目の焦点はあくまでも手元のメニューに落としたまま、沙和は紺色の揺らめきとふわりとした髪型だけを朧気に確認することができた。
(今のところ、順調)
あとは、自分が頑張るだけだ。
のらりくらりと世間話をしながらタイミングを伺い、沙和がようやく今日の本題を切り出したのはお互いのパスタをほぼ食べ終わった頃だった。
「あのさ相原、私が相原の部屋に来てから二週間たったでしょ」
ペーパーナプキンで口元を拭いていた相原は、視線だけで沙和に応える。その目の色は、次の沙和の「……もう限界なの」という言葉を聞いて、鋭く細まった。
「何が?」
「もう無理ってこと」
「だから、何がと聞いている」
一気に剣呑な空気が広がる。二人が沈黙している間に食後のデザートとコーヒーが運ばれて来たが、相原は店員の存在などないように沙和だけを食い入るように見つめていた。
「……相原と一緒にいると息苦しい」
沙和が発した端的な言葉に、相原は何度か瞬きをした。膝の上で拳を握りしめて、沙和は目に力を込める。
「こんなふうに一緒にいたって、私は相原を好きにはなれないし、相原だってそんな私といるのは嫌でしょ?」
相原は真顔のまま沙和を見返していたが、不意にその表情を崩すと「嫌だなんて思うわけない」と鼻で笑い飛ばした。
虚勢をはっているようには見えない。
相原にはまるで動揺する気配がなくて、沙和の体が少しずつ熱くなっていった。
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