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冷静にならないといけないと思いつつも「なんで? こんなふうに脅して一緒にいて、それでいいの? 相原は幸せだってこと?」と言い募る。
それでも、相原は眉の一つも動かさなかった。
「脅すとは物騒だな」
「……現に相原は私を画像で脅してる。私が従うように仕向けてるじゃない」
「望月を離したくないんだ。人の気持ちは変わりやすいから、逃げないようにする担保が必要だ」
「そんな考え方おかしいよ」
「おかしいと思うから、おかしく見えるだけだろう?」
「へりくつ言わないで」
沙和は「私は相原の家じゃなくて、自分の家に帰りたい」と強い口調で言った。
「許さない」と、相原は眼光鋭く言い放つ。
沈黙が二人の間に落ちた。
(やっぱり……価値観が違いすぎる)
相原にはすり合わせる気持ちが全くない。沙和だって、相原の愛の形をそのまま受け入れることはできない。
堂々巡りになる未来しか見えなくて、沙和は思い切り顔をしかめた。
「……なんでなの……。相原はずっといい友達だったのに……こんなことするなんて、考えたこともなかった……」
「友達?」
相原静かに沙和の言葉を反芻し、蔑むような視線を返す。
「……もう友達になんか戻れないし、戻る気もない」
「相原……」
別に無策で説得できると思っていたわけではない。けれど、自分の描いた通りの展開になってしまっていることが悲しくて、沙和はうつむいた。
相原には沙和の言葉は届かない。
どうして肝心な部分で、沙和の気持ちを理解しようとしないのだろう。
「これ以上話しても無駄だと思わないか」
「……でも話さないと何も変わらない」
「変える必要なんてない」
相原は唇を真一文字に結ぶと、デザートに手をつけずに立ちあがった。伝票に手を伸ばすのを見て「待って!」と沙和がそれを制したのと、隣の紺色の影が立ち上がり「待ってください」と声をかけたのは同時だった。
「なっ……」
予想もしていなかった衝撃だったらしく、初めて相原が狼狽した顔を見せた。これ以上ないくらいに目を見開いて、目の前に立つ男ーー椎名を見つめる。
それでも、相原が動揺を顔に表していたのは数秒のことだった。
すぐに普段通りの涼しい眼差しに戻ると「……君は?」と椎名の頭の先から爪先まで視線を巡らせる。
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