23、対峙

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冷静にならないといけないと思いつつも「なんで? こんなふうに脅して一緒にいて、それでいいの? 相原は幸せだってこと?」と言い募る。  それでも、相原は眉の一つも動かさなかった。 「脅すとは物騒だな」 「……現に相原は私を画像で脅してる。私が従うように仕向けてるじゃない」 「望月を離したくないんだ。人の気持ちは変わりやすいから、逃げないようにする担保が必要だ」 「そんな考え方おかしいよ」 「おかしいと思うから、おかしく見えるだけだろう?」 「へりくつ言わないで」  沙和は「私は相原の家じゃなくて、自分の家に帰りたい」と強い口調で言った。 「許さない」と、相原は眼光鋭く言い放つ。    沈黙が二人の間に落ちた。 (やっぱり……価値観が違いすぎる)    相原にはすり合わせる気持ちが全くない。沙和だって、相原の愛の形をそのまま受け入れることはできない。  堂々巡りになる未来しか見えなくて、沙和は思い切り顔をしかめた。 「……なんでなの……。相原はずっといい友達だったのに……こんなことするなんて、考えたこともなかった……」 「友達?」  相原静かに沙和の言葉を反芻し、蔑むような視線を返す。 「……もう友達になんか戻れないし、戻る気もない」 「相原……」  別に無策で説得できると思っていたわけではない。けれど、自分の描いた通りの展開になってしまっていることが悲しくて、沙和はうつむいた。    相原には沙和の言葉は届かない。  どうして肝心な部分で、沙和の気持ちを理解しようとしないのだろう。 「これ以上話しても無駄だと思わないか」 「……でも話さないと何も変わらない」 「変える必要なんてない」  相原は唇を真一文字に結ぶと、デザートに手をつけずに立ちあがった。伝票に手を伸ばすのを見て「待って!」と沙和がそれを制したのと、隣の紺色の影が立ち上がり「待ってください」と声をかけたのは同時だった。 「なっ……」  予想もしていなかった衝撃だったらしく、初めて相原が狼狽した顔を見せた。これ以上ないくらいに目を見開いて、目の前に立つ男ーー椎名を見つめる。  それでも、相原が動揺を顔に表していたのは数秒のことだった。  すぐに普段通りの涼しい眼差しに戻ると「……君は?」と椎名の頭の先から爪先まで視線を巡らせる。
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