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24、決着
顔面蒼白の沙和と同じように、椎名も顔を引きつらせている。どうやら椎名も、壮太がいることも来ることも知らなかったようだ。
相原は壮太を見て瞬時に記憶が呼び起こされたらしく「お前……」とその目に怒りを灯して睨みつける。その強い視線をいなすように壮太は笑うと「その節はどうも」と軽口を叩きながら、ちゃっかり相原の隣に座った。
(そ、そこに座るの危険すぎじゃない!?)
大胆すぎる壮太の行動に、沙和も椎名も顔色を失くした。
案の定相原は心底嫌そうに顔をしかめて、少し椅子を離してさえいる。
そして急に人数が増えたテーブルに驚いた店員がやって来ると「あ、すみません。あと二つコーヒー追加してください。で、その隣のテーブルと俺のいたテーブルはもう片付けて結構ですから」とにこやかに注文をつける。
この場の誰しもが固まっている中で、平然としているのは壮太ただ一人だ。
壮太の心臓には毛が生えているに違いない。のんびりとした普段の調子のままで「それで? 録音はうまくいったの?」と椎名にたずねている。
「いや、これからそれを確認しようと……」
「それなら、これ」
ほら、と壮太はバッグからイヤホンを出して、椎名の方へと押し出す。
「これで聞いた方が鮮明だよ。あと、相原に本体盗まれないように警戒しとかないと」
「……そんなことはしない」
相原は憮然としているが、壮太はどこ吹く風だ。さあ早くと椎名を促して、自分もイヤホンを片方確保している。もちろん、もう片方は相原だ。妙な絵面に沙和は別の意味で汗をかきながら、椎名の手元を見つめた。
(ちゃんと録音できてますように……!)
高性能なボイスレコーダーを買ってくれたと聞いていたものの、どの程度声を拾っているかは未知数だ。椎名も緊迫感のある表情で、相原と壮太の表情の変化を観察している。
二人は表情を変えずにボイスレコーダーから再生される音声を聞いていた。しばらくして、壮太の口の端が上がり、もう用はないとばかりにイヤホンを外す。
「ちょっとギリギリな感じだけど、ちゃんと聞こえてる」
よかったねぇと壮太は朗らかに笑い、沙和を安心させるようにうなずいた。さっきからずっと場違いに軽い調子だけれど、それが沙和にはありがたかった。
「じゃあ沙和にスマホを渡してくれる?」
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