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ここでどうしても決着をつけたい。
そのために、あと何を言えば相原を説得できるのだろう。
必死で考えを巡らせている間、男たちも無言だった。
けれど、やはり最後に場を動かしたのは相原で「……わかった」とため息とともに吐き出した。
「俺は……勝負に負けたんだな」
言いながら相原は沙和へとスマホを差し出してくる。ロックは解除された状態だったから、沙和は即座に画像フォルダを開いて問題の画像を探した。椎名は気を遣って、明後日の方向を向いてくれている。
「勝負なんて言ってる時点で、沙和とは土俵が違うってことなんじゃないの?」
壮太の嫌味に相原は何の反応も示さない。けれど、画像のありかはここだけかと重ねて壮太が問うと、それについては首肯した。
「本当? パソコン持ってるんでしょ?」
「そっちにはいれてない。別に確かめに来てもいいが」
「……そうしようかな……どう思う? 椎名」
自分が映る全ての画像を消去して、沙和は相原にスマホを返した。そうしてから「多分……相原は嘘はついてないと思う」と代わりに答える。
「なんでそう思うの?」
「何となくだけど」
「俺も望月さんの意見に賛成、かな」
沙和と椎名の言葉を受けて、壮太は「二人とも善良すぎじゃない?」と口をとがらせる。
「……俺、そういう勘ってあんまり信じたくないんだけど」
壮太の疑うような目つきに、相原はうんざりした様子を隠しもせずに「だから確認すればいいと言っている。しつこい男だな」と吐き捨てた。
「あ、かっちーん。別に俺、しつこくないし」
ぶつくさ言い始める壮太を椎名がたしなめる。そうしてから相原に「……このデータ、消して欲しいですか」とボイスレコーダーをちらつかせた。
「いやいや、残しとこうよ。いざという時の保険にさ」
すかさず口を挟んでくる壮太に「島谷はちょっと黙ってて」と椎名は睨みを聞かせると、再び相原を見つめた。沙和もつられて相原を見ると、彼は興味なさそうに「別に、どっちでもいい」と肩をすくめる。
「保険に持ちたいなら、そうすればいい」
相原の顔から、少しずつ色が失われていく。感情を投げ捨てでもしたような無表情に、かける言葉が見つからない。
晴れて自由になったと実感するよりも先に、どこか心もとない感覚がお腹のあたりでわだかまる。
「相原……」
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