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25、選択の時
「かんぱーいっ」
壮太の晴れやかな声に合わせるように、沙和と椎名もジョッキをもちあげた。ビールの爽快な喉越しに生き返る心地がする。
それは壮太と椎名も同じだったようで「いやー、なんか肩の力が抜けるね」と脱力する壮太に、椎名も緩んだ表情でうなずいていた。
相原があのまま店を去ってから、沙和はしばらく呆然としていた。自分が本当に自由の身になったのか確信がもてないでいると、壮太と椎名が「大丈夫だから」と連呼してきて、その勢いと力強さにようやくそうかもしれないと思えた。
相原が握っていた画像はもう存在しない。
相原が沙和を縛りつける鎖は断ち切られた。
(そう思って、いいんだよね……?)
じわじわと足元から暖かいものが巡りはじめ、だんだんと二人の言葉が事実として感じられるようになり。
そうして三人で沙和の最寄駅に戻って来て、まずは飲もうと昼間からあいている居酒屋にやって来たのだ。
夕方という時間帯もあって、店内は沙和たちの他に二、三組しか客はいない。おそらくあと一時間もすれば賑わいをみせるのだろうから、嵐の前の静けさという感じだ。六人用の広いテーブルに案内してもらい、座るなり壮太がビールを注文する。
「まだそんなにお腹すいてないよね」
壮太の言葉に沙和も椎名も同意を示し、酒肴は枝豆や漬物など軽めのものだけ。
その全てが一気にテーブルに並び、なんとなく賑やかな雰囲気になったところで、三人は乾杯をした。
椎名はどうやら相当喉が乾いていたようで、一気に半分ほどビールを飲み干すと「ぷはーっ」と気持ち良さそうに息を吐き出している。壮太も似たようなもので、二人とも憑き物がおちたような晴れやかな表情だ。
並んで座る二人が妙にシンクロした動きをするから、沙和は少しだけ吹き出した。
「どうなるかなって思ってたけど、大成功だったね」
録音が成功したこと、説得に相原が応じたこと。
壮太の言う通り、全てがうまく流れたなと沙和も思った。
「そうだね、すごくほっとした」
言いながら背を椅子に預けると、どっと疲れが滲み出てくる感じがした。体が重い。
「もっと粘られるかと思いましたけど……助かりましたね」
椎名も晴れやかな顔でそう言った。
今回、彼にはかなりプレッシャーのかかることを任せてしまっていたので、内心ほっとしているのがよくわかる。
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