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仕事ができそうだとか、友達少なそうだとか、壮太と椎名が相原についてしゃべっているのをぼんやりと聞き流しながら、沙和は相原のことを思い返していた。
本当にこれで良かったのだろうか。
作戦は大成功で、願った通りに事は進んだ。そのはずなのに、想像していたよりも高揚感が少ない。
相原が最後に見せた、色を失ったような表情が脳裏に焼きついている。
感情を必死で出さないように抑えている感じ。きっと内心ではマグマのように熱い思いが渦巻いていたはずだ。
そんな感情の奔流はどこへいくのだろう。
「同情なんてしなくていいからね」
不意に壮太が身を乗り出して、頬杖をついていた沙和の手に触れた。それで沙和の意識を向けると壮太はすぐに離れ、沙和に挑みかかるような目つきをしてくる。
「他に何かやり方があったんじゃないかとか考えてないよね?」
「別にそんなこと……」
「相原を傷つけずに済む解決策なんてないんだからね?」
「わ、わかってるってば!」
慌てて答えて壮太の脇に視線をすべらせると、椎名が心配そうな表情になっている。壮太の表情をもう一度確認して、沙和は「……大丈夫」と自分に言い聞かせるように呟いた。
この二人の前で、迷ってはいけない。後ろを振り返ってもいけない。
彼らのおかげで沙和はこうして自分が帰りたい場所へ帰ることができるのだ。
「ごめん。家に帰れるのが嬉しいっていう気持ちが、一番大事だよね」
微笑んでみせると、二人とも安心したように口元をゆるめるのがわかった。
「本当にありがとう。全部二人のおかげだよ」
できるだけ明るく声を弾ませて、ちゃんとお礼するからねと言うと、壮太がにんまりと笑う。
「もちろん、おっきなお礼もらうつもりだから!」
最初からそのつもりでしたとハキハキ言われ、沙和は「……なんか変なこと企んでないよね?」といぶかしむ。昔から壮太は悪知恵が働くというか、人を困らせることが大好きなのだ。
「とりあえずかかったお金は全部払うし、ここも奢るけど……」
「いやいや、そんなのいいよ」
壮太は手をふってまでそれを否定し、にんまりと口角をあげる。
「やっぱりここは男のロマンとして……」
「ロマン?」
「俺たちの願いを一つずつ叶えてくれるってのが良いよね!」
「……願い?」
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