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壮太は満面の笑みでうなずき「ねっ、椎名」と隣の椎名を肘で小突いた。それをされた椎名も壮太と同じような微笑みを浮かべて「宜しくお願いします」と小さく頭をさげる。どうやらこれは事前に二人で話し合って決めたことのようだ。
「お願いって何? 言っとくけど、叶えられることとダメなことあるからね」
沙和が目を細めて二人を見比べると「それはこれから考えるから」と壮太がしれっと言い放つ。
「一応俺たち、頑張ってここに集中してたからさ。その後のことはまだ考えてなかったわけ。だから何をしてもらうかは、また後日」
「……嫌な予感しかしないけど」
「望月さんが嫌がるようなことは絶対言いませんから!」
「そうそう。相原の二の舞にはなりたくないからね」
椎名はともかくとして、壮太はとんでもないことを要求してきそうだ。
彼らの考えていることはまるで分からない。
けれど楽しそうな二人の表情を見ていると、沙和も自然と口元が緩んだ。
(やっぱり良かった。……良かったんだ)
そうしてダラダラと三人で酒を酌み交わしていると、次第に静かだったまわりの席が埋まり始める。賑やかな活気に包まれて、お酒がいい具合にまわってきたのか、沙和はあくびを止められなくなってきた。
時刻は九時をすぎたところ。
まだ宵の口の時間帯だ。
それでも急速にまぶたが重くなってきたので「……ごめん、今日もう限界」と沙和は自己申告した。
「家に帰って寝たい……」
「ああ、そうだよね。お腹もいっぱいになったし、もうそろそろ出ようか」
壮太は沙和の言葉を受けてうなずき「で、今晩なんだけど」と改まった声を出した。
「どっちに泊まって欲しい?」
「……はい?」
突拍子もない質問に沙和の意識は少し浮上した。
「何言ってんの。別にどっちも泊めないよ?」と、悩むことなくあっさりと切り返すくらいには。
ようやく手に入れた自由なのだ。
久しぶりに一人で部屋でのんびりしたい。ていうか寝たい。
けれど沙和の言葉に、壮太は「だめだめ」と首を横にふった。
「もしも相原が来たらどうするの。昼間は俺たちがいるから殊勝だっただけかもよ。夜に沙和が一人のところを狙って、急襲してくるかもしれないじゃん!」
「ええっ……そ、そんなことする……!?」
一気に目が覚めて、沙和は何度も瞬きをした。
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