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26、帰り道
「じゃあ……椎名君」
沙和の出した答えに、壮太も椎名も固まった。二人とも鳩が豆鉄砲くらったような表情で沙和を見返すから、沙和の方も「え、何かまずかった?」と困惑してしまう。
「ぜんっぜんまずくないです! ありがとうございます!」
「いやいやまずいでしょ! なんで!?」
喜びいさんだ様子の椎名とは対照的に、壮太は不満を爆発させた。
「ここは俺でしょ! これまでの歴史からみても、俺でしょ!」
「壮太の言いたい事はわかるんだけど、椎名君にもう少し話があるんだよ。……ていうか、そもそも泊まらなくても良い気が……」
「それじゃ心配です!」と椎名。
「話ならここですればいいじゃん!」と壮太。
「心配してもらえるのは嬉しいけど、ちゃんと玄関に鍵もかけるし」と沙和。
三者三様の意見が交わり、椎名と壮太は至近距離で睨み合っている。それを「まあまあ」と沙和はとりなして「椎名君も終電なくす前に帰った方がいいよ」と椎名に声をかけた。そして壮太に視線を移すと「壮太がいるといちいち口挟んでくるから話がすすまない」と言い放つ。
「だったら俺、石になるし。ほら話しなよ。それでもっかい選び直してよ」
壮太が焦った様子で身を乗り出してくるが、そういうことでもない。
子供みたいな言い分に苦笑しつつ「いや、だからね……」と再度説得しようとしたところで、椎名が壮太の袖をかるく引っ張った。
「往生際が悪い男は嫌われちゃうよ?」
椎名がにんまりと口角を上げて勝ち誇った顔で言うものだから、壮太は「ほー……椎名、よく言ったな」とその目元に光を失くす。だんだんと目がつりあがっていくのがわかり「ちょ、ちょっと壮太、落ち着いてよ!」と沙和は焦った。
「別に今日だけの話なんだし、そんな突っかからなくても……」
「今日だけなんですか!?」
今度は椎名がころっと表情を変えて、上目遣いで沙和を見つめてくる。顔面蒼白で子犬のように目を潤ませてくるものだから、沙和は「うっ……」と二の句が告げない。
「当たり前でしょ。今日だけの特別措置に決まってる。ていうか沙和を家まで送ったら、ちゃんと自分の家帰れよ?」
「終電があればね」
「いやいや、今まだ九時でしょ! 終電とか心配するレベルじゃないから!」
(な、何これ……)
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