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呆れかえっている沙和の冷たい眼差しを受けても、椎名はニコニコと笑顔を崩さない。
ここまで開き直られるとかえって清々しい。
が、それとこれとは話が別なわけで……。
「じゃあこれ、俺からのお願いにします。……ちょっともったいないけど仕方ない」
椎名は少しだけ惜しむように目を細めたが「今日、望月さんの家に泊めてください。何でも一つ、でしたもんね」と胸を張ってみせた。
椎名は沙和が首を縦に振ると確信を持った様子である。
「……そんなに泊まりたいの? 別に部屋広くないし、二週間いなかったからほこりもたまってるよ?」
「そういうことは関係ないんですよ。わかるでしょう?」
「……わかる、けど」
「それに、こういう夜は一人でいない方がいいんです」
椎名は言うなり沙和の手にある鍵を奪って、鍵穴に差し込んだ。
「絶対望月さんの嫌がることはしませんから!」
勢いよく鍵をまわしてそれを引き抜くと、椎名は満面の笑みで「保証します」と敬礼までつけた。
沙和はそんな椎名を真っ向から見つめて、それならいいかと肩の力を抜いた。そんな自分も、大概だなと思う。
こういう甘さが、相原の件を引き起こしたのは重々承知している。けれど沙和には椎名が相原と同じことをするとは思えなかった。相原の行動に憤っていた彼ならば、きっと沙和に無体を強いることもないだろう、と。
「……わかった。椎名君のこと、信じてるからね?」
(お願いだから、この信頼を裏切らないでよね!)
念をこめて椎名を見つめると、椎名は元気よく「はいっ」と返事をした。
◆
「おー。ここが望月さんの部屋かぁ」
部屋の電気をつけると、二週間ぶりの我が家が明るく照らされた。家を出る前に相原に片付けさせられたから、床の隅にほこりはたまっているが、整頓だけはされた状態である。
「シャワー先に使っていいよ。……着替えは、壮太のでよければあるけど」
クローゼットを開けて、壮太用の衣装ケースの中に何かないかと探していると「島谷とは結局どういう関係なんですか?」と質問がかかる。
「……そうだなぁ」
沙和は白いTシャツと紺色のハーフパンツを取り出してから、後ろを振り向きクローゼットを出た。椎名は真顔で沙和の手元を見つめている。
「幼馴染としか言いようがないんだけど……多分、それだと椎名君的に微妙だよね?」
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