26、帰り道

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 世間一般の幼馴染の関係とはどういうものなのか、沙和にはわからない。ただ、少なくとも普通の幼馴染はこんなふうに大人になっても家に泊まりに来たりしないし、あまつさえセックスなんてしないのだろう。   「……よく泊まりにくるんですか?」 「うん」 「……あいつとは、するんですか?」  少しためらったものの肯定してみせると、椎名は「やっぱり!!」と大きな声をあげるなり突然しゃがみこんだ。 「島谷に聞いてもしらばっくれてばっかりだったんですよ。幼馴染だけど、ただの幼馴染じゃないよみたいな感じでいつも濁して……」 「うわー……言ってそう……」 「だから多分ヤッてるんだろうなとは思ってたんです。思ってたんですけど……くそーっ!」  あー、悔しい! と吐き捨てながら、椎名は髪をかきまわした。もともとのゆるいパーマが噴火したみたいになってしまっている。けれどすぐに律儀にそれを直すと「付き合ってるわけじゃないんですよね!?」と椎名は一歩前に踏み込んできた。 「あ、うん……」  それを聞いて椎名は天を仰ぐと、しばらく微動だにしなかった。 (……確かに椎名君からしたら、ショックな事実かもしれない)  今更ながらそれに思い至り、沙和は「……帰ってもいいんだよ?」と声をかける。  幻滅されても仕方ないと思ってそう言ったのだが、椎名の反応はそういうものではなかった。 「……いえ、大丈夫です。全然平気ですからっ。じゃ、シャワーお借りします」  突如きびきびとした調子で言うなり、バスルームへと向かっていく。椎名にしては焦ったような慌ただしい動きで、沙和はあっけにとられてそれを見送った。
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