27、告白

2/6
前へ
/274ページ
次へ
 いまだ髪が濡れている椎名は、普段のふわっとした雰囲気が半減して、どこか男性らしさがにじんでいる。そういう椎名を見ていると意識してしまいそうだから、早く髪を乾かしてほしい。その気持ちが伝わったのか、椎名は素直にドライヤーをかけにいって、戻った時にはだいぶいつものふわり感が復活していた。 (良かった。いつもの椎名君だ)  ホッとしたのもつかの間、椎名が真面目な顔で「望月さん、さっきの話の続きしてもいいですか」と言うから、一瞬にして沙和の体を緊張が走った。  正直、今日はこれ以上何かを考えることはできそうにない。けれど、椎名のこれまでの頑張りに少しでも報いたいと思えば、沙和はうなずくしかない。  ソファに座っている沙和の正面に椎名はやってくると、目の前でかがんで視線を合わせてきた。相変わらずの吸い込まれそうな大きな目が、今は宝石のように煌めいている。 (綺麗な目……)  今までに、こんなふうに椎名に見つめられることはなかったはずだ。おそらく、多分。 「俺は、望月さんが好きです」  けれどもしかしたらあったのかもしれない。沙和が気づかなかっただけで。  相原とのことを相談していた時、椎名はどんな顔をしていただろうか。   「……私にアドバイスしてくれてた時も、ずっと?」  そっと聞いてみると、椎名は寂しそうに目を細めた。 「心では血の涙を流してたんですよ。……望月さんが俺のこと眼中にないのわかってたし、幸せになるならそれでも良いかなんて思ったこともあったし」 「……椎名君」 「だから、もしもあの人と望月さんが付き合い始めて幸せそうだったら、俺も言わずに諦めたのかもしれないです」  でも違ったから、と椎名は目に力を込めた。 「望月さん、俺が思った以上に隙があるのが分かったから……だから、俺も立候補させてください」  沙和がとっさに何も言えずにいると、椎名は声に力を込めて続けた。 「俺はあの人みたいに望月さんを怖がらせたり、嫌な気持ちにはさせません。絶対です。優しくします。だから……俺のこと、考えてみてくれませんか?」  そこからの上目遣いは反則だ。  ……気づいたら沙和はうなずいていた。 「……よしっ」  椎名はすぐに沙和の手を離すと、立ち上がって小さくガッツポーズをした。喜びの表現が子供みたいだ。びっくりして、小さく吹き出してしまう。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2684人が本棚に入れています
本棚に追加