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「そんなに嬉しいの?」
「そりゃ嬉しいですよ。ようやくスタートラインにたてましたから」
喜ぶ椎名の笑顔につられて、沙和も力の抜けた笑みをこぼした。それを見て椎名の顔がまたほころぶ。
「望月さんの笑った顔、俺好きですよ」
「あ……ありがと……」
直球で褒められて、沙和は顔に熱が集まってきた。椎名は軽く言っているが、その言葉には妙な熱量があるから、しっとりと沙和の心に染み入っていく。
(困ったな……)
椎名にこれからどう接していけばいいのか分からなくなりそうだ。
少し冷静になるためにも「とりあえず布団出すから」と沙和はクローゼットを開けた。椎名には客用布団を使ってもらう。絶対だ。妙な決意をかためて、沙和は椎名の返事を待たずして布団袋を出した。
「俺、ソファでいいですよ」
「そんなわけにもいかないよ」
ローテーブルを動かすのを手伝ってもらってスペースを作ると、沙和は敷布団を広げた。久しぶりに出すから少し湿気っぽいが背に腹は変えられない。クッションとブランケットを渡して、とりあえず横になってもらう。
そうしてから電気を消して、沙和もベッドに潜った。
「……消灯早くないですか?」
一応沙和にしたがって布団に寝転がった椎名が言ってくる。
「いいの。今日疲れたでしょ?」
「俺まだ眠くないですー」
「私眠いの。おやすみ」
「望月さんてばー……」
椎名の後引く声を振り切るように、沙和はタオルケットをかぶって彼に背を向けた。
「望月さん。望月さーん」
椎名は軽い調子で話しかけてくる。沙和がまだ眠らないと確信しているようだ。
それは当たっていて、確かに沙和も妙に目が冴えている。体も心も疲れているのがわかるのに、脳が眠れと信号を出してこない。
「……もう少し俺、話してもいいですか?」
椎名の声音が真面目なものに変わった。沙和は少し迷ったけれど、のっそりと寝返りを打って椎名の方に体を向ける。彼はうつぶせになって肘で上半身を起こすと、暗がりの中で沙和と目を合わせてきた。
「どうしたら、俺のこと好きになってくれますか?」
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