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「なっ……何急に」
「もし何か好みがあったら教えてくださいね」
できそうなことだったら善処しますからと椎名は笑う。
彼なりの冗談なのか、本心なのか、全く読めない。
「……そんなこと言われたってわかんないよ。別に好みとか考えたことないし、それを椎名君に押し付ける気もないし」
「ですよね。望月さんならそう言うと思ってました」
のそりと椎名が起き上がり、ベッドの下で正座をするとパンっと手を合わせた。
「キスしたいんですけど、許可をください」
「はあ!?」
唐突な申し出に沙和は心底驚いた。
「なんで急に!?」
「俺考えたんですよ。これまで俺って、望月さんにとってただの後輩じゃないですか。そこからいきなり異性として見てもらうには、ちょっと荒療治が必要なんじゃないかって思って」
「いや、別にちゃんと異性として認識してた……」
「小動物とか言ってたのはどこの誰ですか」
「うっ……いやでも、もうほら、椎名君の気持ち聞いたし……確実に見る目は変わってるから安心して……」
「それだけじゃ弱いんです。もう一手が欲しいです」
キスだけですから! それ以上のことはしませんから!!
重ねて懇願されたが、沙和は「いやいや、しないから」と断りを入れる。
椎名は拗ねた顔で「なんでダメなんですかー」と不満そうだ。
「別にキスしたからって付き合えると思ったりしません。でも、どうも望月さんは俺を男扱いしてない気がするから、そのへんの認識を改めたいんですよね」
「何その理論。大丈夫! 男として認識してる! 今した!」
「じゃあもっとしてください」
何か日本語おかしくない!?
沙和がいくらダメだと言っても、椎名が珍しく引かない。お願いしますの一辺倒で、頑ななのだ。
だんだん言い合っているのも疲れてきて、沙和は「もう……仕方ないな」と折れた。
「やっぱり望月さんて、流されやすい……」
椎名が嬉しそうに呟くから「だって椎名君がしつこいから! そんなこと言うならやっぱりしない!」と沙和はむくれる。こういう時に相手をしすぎるからいけないのか、とようやく分かって、沙和は再び横になろうとした。
が、椎名がすばやくベッドに乗り上げてきて、沙和の手首をつかむ。
「もう撤回はききません」
言いながら微笑んで、すばやく唇を合わせてくる。弾力のある柔らかい唇だった。
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