28、余韻

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28、余韻

 気づけば、お互いの体がぴったりと張り付いたように密着していた。  洋服ごしに椎名の怒張を擦り付けられ、沙和はそれを快感として拾い上げながら、椎名の口内に伸ばした自身の舌を必死で彼のそれを絡ませていた。  キスだけ。それだけ。  その言葉が免罪符になって、先ほどから沙和と椎名はずっとその行為に没頭している。  椎名とのキスは、相原が沙和にしていたような、何かを根こそぎ奪おうとするようなものではなかった。  激しいのに優しくひたむきで、確かに彼が自分を想っていることが感じられるものだった。 「……うっ……」  椎名が声を震わせて、一度沙和から離れた。銀糸が引いた先を名残おしそうに眺めながら、照れたように目を細める。 「さすがに……これ以上はもう無理ですね」  最後に一度だけ触れるだけのキスを落とすと、椎名は沙和から離れた。あっさりした態度の椎名を目で追いかけると「……その目、反則です」と椎名は拗ねた様子で沙和の肩を押してゆっくりとベッドに押し倒した。  そしてのしかかってくる……わけではなく、沙和の体を転がすように押してベランダの方へ向かせると「おやすみなさい。……俺、もっかいシャワー借ります」と声をかけてから再び離れていった。  ひたひたと足音が遠ざかり、ドアが閉まる音がしたところで沙和も肩の力を抜く。  今まで誰とも、こんなに長い時間キスだけをしたことはない。少しだけヒリつく唇が熱を持っていて、先ほどまでの濃密なキスの余韻が強く残っている。 (キスだけなのに……)  体が火照って仕方ない。  きっと今、沙和の下着は濡れているに違いない。  恥ずかしさに一人顔を赤らめつつ、沙和はぎゅっと目をつぶった。  遠くからかすかにシャワーの音が聞こえてくる。  不意に椎名がそこで何をしているかを想像しかけて、沙和はあわてて打ち消した。  ◆  なかなか眠れないと思っていたはずなのに、沙和は椎名が戻ってくる前には意識を飛ばしていた。そうして目を開けたら、カーテン越しの空はもうすでに明るく青い。 「なんじ……」  かすれた声で呟いて、枕元のスマホを確認する。昨晩電源を切ったままのスマホの画面は真っ暗で、沙和は緩慢な動作で電源を入れた。  眩しいくらいの光を放ちながらスマホが起動して、現在時刻(九時だった)と壮太からのメッセージを知らせてくる。
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