2685人が本棚に入れています
本棚に追加
なんで沙和の考えていることがわかったのだろう。
図星をつかれて少し慌てつつ「そ、そっか」と沙和は相槌をうった。
「望月さんもありますよね?」
「うん」
「……怒ってます?」
おそるおそる沙和の反応を伺う椎名が震える子鹿のようで、沙和はぐっと詰まってしまう。
(こういう緩急やめて欲しい……!)
ここで沙和が『もうめちゃくちゃ怒ってる! 信じられない!』とか言ったとしたら、絶対にこちらの方が罪悪感を感じるに決まっているのだ。
(しかも普通に気持ちよかったし……!)
つまり、怒れるような立場にないということ。
「……別に怒ってないよ」
ふいっとそっぽを向く沙和に、椎名は「良かった」と嬉しそうな反応を示した。
「告白の返事はまだしないでくださいね。もう少し俺頑張りますから」
そう言って、椎名は付け合わせのスクランブルエッグの最後の一口を口に運ぶ。食事を済ませてようやく脳が活発に動き始めたのか、目には確かな光が宿り始め、もう椎名は普段の彼の姿に近づきつつあった。
その証拠に、何かを思いついたというように目をきらめかせると「それで、どうでしたか? 俺のこと、ちゃんと男だって認識できました?」とほんの少しだけ沙和との距離をつめてきた。
ソファに隣り合って座っているから、近づこうと思えばすぐにそれが実行できる。実際には椎名はそう大胆に動いたわけではないが、沙和は大げさなくらいに後ずさって「それはもう!」とうなずいた。
十二分に感じさせてもらいました。
もうお腹いっぱいです。
沙和が耳を赤くしているのを見て、椎名は嬉しそうに笑った。
「望月さん、顔に出すぎです」
かわいいなぁと椎名が楽しそうに呟く。完全にからかわれている。
「もう一回くらいしてもいいですか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
ずいっと顔を近づけてくる椎名から逃げるように身を翻して、沙和はソファから立ち上がった。このまま片付けをしようと皿を重ねて始めると「あ、皿洗いは俺しますよ」と椎名もマグカップを手繰りよせる。
「いやいいよ。私するから」
そう沙和が遠慮しても、椎名は「これくらいはやりますから」と先にキッチンに行って、流しを陣取ってしまった。
「ありがとう……じゃあ、お願いします」
「はい」
最初のコメントを投稿しよう!