3、朝の情事(★)

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 着替えまで済ませて何を言ってるんだかと呆れていると、壮太は立ち上がって沙和の目の前にやってきた。 「ねぇ、このままいてもいい?」 「だめ」 「えー、なんでー」 「約束は守るべし」 「でもなぁ、もう沙和とやって満足したから、会わなくても良くなっちゃった」 「ちょっと! だから私とはやめようって言ったでしょうが!」 「いやー、だって今日の沙和があまりにも良かったから……」 「もう!」  まったく悪びれずに笑う目の前の男を殴りたい。ちょうど目の前の、いい位置にある腹にグーパンチを……と拳を握りしめたところで「はいはい、ストップね」と手首を掴まれた。 「冗談だってー。仕方ないから行くよ」 「さっきからマリちゃんに対して失礼すぎない!?」 「沙和は怒りすぎじゃない?」  どうしたのー? とケラケラ笑う壮太を見て、自分を省みろ! と沙和は主張した。 「私だったら、たとえセフレだとしても、そんなふうに思われたら嫌だもん」 「そんなふうって?」 「会うのが面倒とか、直前まで別の女のところにいるとか……」 「なんで?」 「なんでって……」 「ただのセフレだよ? お互いやりたい時に会う関係でしょ? そこに感情とか前後関係とか……必要?」  壮太は腰をかがめて、目線の高さを合わせてきた。底冷えする深く暗い瞳には、見覚えがある。細い目の奥にあるのは、彼のーー。  ぞくりと背筋に走る悪寒に気づかないふりをして、その視線を真っ向から受ける。 「壮太はいらないかもしれないけどさ、マリちゃんはそうじゃないかもってことだよ」 「そんなの知らないよ」    清々しいほどに潔く切り捨てて、壮太はまっすぐな微笑みを浮かべた。 「他人の気持ちなんて知らない。俺にわかるわけない。……そうでしょ?」  聞いておきながら、壮太は沙和の返事を求めていない。すっと姿勢を正すときびすを返す。その背中からは近寄りがたいオーラが出ていて、沙和はこっそり肩をすくめた。  沙和は『マリちゃん』と面識はない。だから彼女の気持ちは分からない。けれど今回の映画のように、彼女が壮太をたわいないデートに誘うことは結構あるから、きっと壮太のように割り切っているわけではないと思う。 (壮太だってきっと、マリちゃんの気持ちに気づいてるはずなのに……)
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