4、リスケジュール

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4、リスケジュール

 吉報は、突然やってくる。  同窓会があった次の週の金曜、沙和のもとへ前触れもなく相原から連絡が入った。   『今晩どう?』  そのメッセージを、沙和は社内の休憩コーナーで確認した。あまりにびっくりして「今日!?」と声をあげてしまう。あわててまわりを見回したが、幸い人影はなかった。休憩コーナーはフロアを出てすぐの廊下に面しているので、割と人が通る。タイミングよく、誰にも今の奇声は聞かれていなかったようだとわかり、沙和はほっと息を吐いた。  立ち並ぶ自動販売機からココアを選んで、それを持って椅子に座る。テーブルに突っ伏して、再度スマホを確認したが、やはり相原からのメッセージは同じだった。それは十四時頃に届いている。今が十五時を過ぎたくらいなので、ちょうど一時間前だ。 (今晩どう? って、飲みの誘い? それとも自宅訪問?)  どっちだろう、この文章からは何もわからない。  けれど、これを逃したら次はないということだけは察することができた。  だから『いいよー。仕事終わるの何時くらい?』とつとめて軽い返事をしてみる。そうしてからココアを一口飲んだ。  あたたかくて甘いココアが体に染み入る。  ローテーブルに一度ココアを置いて、沙和はこめかみをもんだ。沙和はセト化粧品という化粧品メーカーの広報部で働いている。自社製品の販促物のデザインが主な仕事で、基本的に一日中PC作業をしているので眼精疲労と肩こりがものすごい。 (さて、どうしたものかなぁ……)  居酒屋に飲みに行くだけなら別に何の問題もない。けれど、もし沙和の家に来るつもりだったら話は別だ。  相原が来るなら、家にある壮太の痕跡を一つ残らず消さないといけない。間の悪いことに、昨晩も壮太が押しかけて来ていたから、色々なものが部屋に散らばっている。  相原からは『二十時には青山を出られる』と速攻で返事がきた。そしてメッセージの内容からして、沙和の部屋に来たいようだ。ゲームが目的なのか、そうではないのかは、やっぱり判断できなかった。  青山から沙和の最寄駅までは、乗り換えもあるが大体一時間弱で着く。沙和も同じ時間にあがったとしたら大体同時刻に着くから、それだと片付ける暇がない。 (今日は二十時ギリギリまで仕事する予定だったけど、それだとまずいな……)
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