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「おいおい、今日はお前を激励する会だろーが!」
二次会行こうぜと執拗に誘う仲間に、相原は「別に慰めてもらう必要ない。明日仕事だし」とにべもない。大手不動産会社に勤めている彼は、今は青山のマンションギャラリーに配属されているらしく、週末はいつも仕事だそうだ。
「じゃ、また一年後に」
そっけなく挨拶をする相原に心変わりは見込めないと悟ったのか、仲間たちは名残惜しそうにしながらも彼を解放した。その流れに便乗して、沙和も相原とともにきびすを返す。
仲間たちの賑わいを背中で聞きながら、二人で冬の街へと一歩踏み出した。
「予想はしてたけど、やっぱり騒々しかったな」
歩き出すなり、相原がため息とともに吐き出した。
「まあ……ああなるよね。私もびっくりしたし」
「別に大したことじゃない」
「普通の人ならそうだけど、相原だからね」
「俺だからって何だよ」
相原は苦笑いして、肩をすくめた。
彼だって本当は、自分が仲間内でどういう存在なのかを知っている。恋愛体質というわけではないだろうけれど、彼にはいつも女性の影があるのだから。
「まあでも、相原ならきっとすぐにまた彼女できるんだろうね。ていうか実は今もいい感じの子とかいるんじゃないの?」
「別にいないし、しばらく女はいらない」
「おー、言いますねぇ」
誇張でも冗談でもなくそう言えるところが、相原のすごいところである。沙和が「さすが相原」と褒めると「そっちはどうなんだ?」と相原が視線を向けてきた。
「彼氏は?」
「いない。ていうか求めてない」
「相変わらずゲームが恋人?」
「いわずもがな」
「さすが望月」
今度は相原が同じ言葉を沙和に返し微笑んだ。ただでさえ二重の切れ長の目には深みがあるのに、流し目をされるとたまらない。ただよう色気にくらっとした。
(あーもう、相変わらず格好いいんだから)
高校時代も、この目に何度心臓が鷲掴みにされたことか。あの頃はまだ顔立ちに少年らしさが残っていたけれど、二十代最後の年となってその美貌は完成されている。大人びた表情もするようになって、色気が増した。
これは世の女性が放っておくわけがないのだ。
(なんだかんだ言って、またすぐに誰かと付き合っちゃうんだろうな)
残念に思う気持ちを押し込めて「ゲームは私のライフワークだから」と沙和は胸を張った。
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