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ほぼ脊髄反射で答えた後に、いいのか!? と内なる自分が声をあげる。
相原の漆黒の瞳の奥に、含むものは見えない。本当に純粋にゲームが見たいだけのようだけれど、どうして急に? との思いはぬぐえない。
いぶかしげな表情の沙和を安心させるかのように、相原は「別に襲ったりしないから安心していい」と爽やかに言ってのけた。
「い、いや別にそういうこと言いたいんじゃなくて! 相原、明日仕事じゃん」
今は夜十時を過ぎているから、家に着くのは十一時近く。そこからゲームを始めたら完全に日付をまたいでしまう。
「望月の住んでる場所は俺の最寄り駅とも近いから、朝になったら一旦帰ってから出社できる」
沙和と相原の最寄駅は、同じ沿線上にある。新宿寄りなのは相原の方だから、確かに彼の言うプランは実行可能だ。
「いや、相原がそれで平気ならいいけどさ」
「決まりだな」
じゃあ宜しくと相原が微笑み、唐突な展開に沙和の心臓がばくばく言い出す。
(あれ、私、相原と会うの一年ぶりだよね? なんだろ、この距離感)
急に戻って来た高校時代の空気感に戸惑いはあったけれど、相原とまだ一緒にいられるのは純粋に嬉しい。
まるであの頃が戻って来たかのように、高揚した気分になってくる。
隣を歩く相原の存在を急に意識し始めて、沙和は久しぶりの感覚にめまいがした。脈が早くなってきている。
それは、相原に恋をしていたあの頃の自分が、いつも感じていた胸のざわめきだった。
(冷静に……!)
落ち着け自分、と頭をふって、コートのポケットからスマホを取り出す。
新着メッセージ有りと光るその文字と、相手の名前を見て「うえっ!?」と思わず沙和は声をあげた。うかがうような相原の視線にごめんと手振りで示して、メッセージ画面を開く。
まさか今日に限って……という嫌な予感は『来ちゃった♪ 帰りにプリン買って来て?』という内容で現実のものとなった。
るんるんと踊るクマのスタンプのハイテンションな絵柄とは対照的に、沙和の心は急速に沈んでいく。
「……ごめん相原」
絞り出した声は、思った以上に低かった。
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