2、島谷壮太

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2、島谷壮太

 沙和が一人暮らししている部屋は、新宿から電車で二十分ほどの駅にある。快速は止まらないが、だからこそ都心に近い割に家賃の相場が安い。加えてスーパーやドラッグストアが充実して住みやすいから、沙和は気に入っていた。  駅から五分の距離を般若の形相で歩き、自宅アパートについてやや乱暴にその玄関を開ける。狭い玄関には、黒い革靴がほっぽり出されるように置いてあった。 「なんでいるの!」  パンプスを同じように玄関に脱ぎ捨てて、沙和は奥の部屋のドアを開ける。勢いよく開いた先には、スウェット姿の男が沙和のベッドに寝転がって漫画を読んでいた。名前は島谷壮太(しまたに そうた)。沙和の二つ年下の幼馴染である。  沙和に気づくと「おかえり。プリン買って来てくれた?」とのんびりした声をかけてくる。 「買うわけないでしょ。ていうか今日金曜日だよ? マリちゃんはどうしたのよ」 「えー? なんか仕事が忙しいからってドタキャンされた。困るよねぇ」 「困るのはこっちだよ、もうっ」  わめきながらコートを脱いで、おおざっぱな手つきでハンガーにかけていると、いつのまにか壮太が沙和の背後に立っていた。そのまま後ろから抱きしめられ「酒くさ」と首元の匂いをかがれる。そのままペロリとなめられて、一度沙和の体が跳ねた。 「ちょっと!」 「あれ、なんでそんなに怒ってるの?」  ここでようやく沙和の機嫌の悪さに気づいたようで、壮太が体を離して不思議そうに沙和をのぞきこむ。邪気のない細い瞳を精一杯にらみつけて「壮太のせいで、相原を連れ込み損ねた!」と叫んだ。 「えっ、相原って……もしかして、あの相原?」  壮太が驚きに目を丸くする。彼は違う高校に通っていたので、相原と直接面識はないが、存在は知っている。 「彼女いなかったっけ?」 「別れたんだって」  沙和は恨みがましい目で壮太をにらみつけるが、当の本人は我関せずと言った様子で「珍しいこともあるもんだね、沙和が男を連れ込もうなんて」と軽い反応だ。 「いいでしょ、別に」  ふんっと沙和は鼻息荒くクローゼットを開けた。紺色のスウェットと下着を取り出して「とりあえず色々流してくるから」とバスルームへと向かう。 「俺が洗ってあげようかぁ?」  間延びした声は黙殺して、沙和は力強くドアを閉めた。
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