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「ご注文はお決まりですか?」
「!」
ふと気が付くと目の前にいたはずの彼はいなかった。
突然カフェに呼び出されて、着いた途端にいきなり始まった別れ話。言いたいことだけを言って、私が呆けている隙に彼はサッサとお店を出て行ったらしい。
多分、時間にして4~5分のことだろう。
「ご注文、お決まりですか?」
私に向かって二度そう訊いたカフェの店員らしき男性はにこやかに其処に立っていた。
(この人、状況解っていないな)
たった今、フラれたばかりの私に笑顔を向けるその神経に一瞬イラッとした。
──だけど
(ううん、本当は解っているのかも知れない)
だって彼の話が始まってから店員が注文を取りに来ることはなかった。普通ならお店に入ったらすぐにでも注文を訊きに来るはずなのに。
(気を使ってもらったのかな)
にこやかな笑顔も接客業なら当たり前のことだと冷静になって考えられたら苛立ちは無くなった。
「……ミルクティーをください」
「かしこまりました」
本当ならすぐにでも店を出ようと思っていた。だけど何故か今は温かいミルクティーが飲みたいと思ってしまった。
「お待たせしました」
涼やかな声と共に目の前にカップが置かれた。
「ありがとうございます」
小さくお礼を言うと店員はまたにこやかな笑みを浮かべ立ち去った。
その拍子にちゃんと見ていなかった周りの風景が目に映った。
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